一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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狂い咲きについて

質問者:   自営業   博行
登録番号1104   登録日:2006-11-08
狂い咲きは、台風などで冬でもないのに枝がから葉が沢山おちると、
それまで葉から出ていた花芽の分化を抑制するホルモンがなくなり
花芽の分化が始まってしまい、秋に咲いてしまうと、知りました。

そこで教えていただきたいのですが、その花芽分化を抑制しているホルモンとは何なのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
博行様

遅くなりましたが、質問(登録番号1104)にお答えします。
回答:
 花が咲く仕組みにはまだ分からないことが沢山あります。単純にホルモンがあるないだけで決まるものではありません。一般に花が咲くとか付くとかいいますが、三つのステップに分けて考える必要があります。第一は花芽の分化(形成)で、これは今まで葉が形成されていた(栄養成長)のが、花芽の形成(生殖成長)に転換する過程です。次は、花芽が蕾となって発達した花に成長する過程です。おしべやめしべが成熟し、花弁の色等が現れてくるのもこの時期です。
これは枝に新芽ができて、成長し、葉が開いてゆくのと対比できます。最後は開花です。この段階で受粉がおこります。私達の周囲に多いサクラを例にとって説明しましょう。サクラの花芽や葉芽は夏に分化し、秋-冬に向って越冬芽を形成し、成長が停止したまま休眠の状態に入ります。越冬芽は冬の低温で傷害を受けないように芽鱗で堅く守られています。この休眠を誘導するのは多分葉で作られるアブシシン酸(ABA)という植物ホルモンだと思われます。ABAは樹芽や種子の胚などの成長を抑制することが知られています。季節が夏から秋になって日照時間が短くなると、葉はこの変化を冬に向うシグナルとして受容し、葉でABAを多く作り、芽に輸送します。秋〜冬にかけて葉は落ちてしまいますが、気温が低いため芽の成長はありません。しかし、冬の低温を経験する間にABAは減少し、同時に成長を促す植物ホルモンであるジベレリンなどの量が増加して、生長の抑制条件が除去されます。つまり、休眠状態が解除されるのです。そして、春になって気温が上昇しはじめると、越冬芽は成長し始め、開花にいたります。いわゆる狂い咲きは、花芽が分化した後、葉が異常落葉したりしてABAの供給がなくなり、しかもその後高い気温が続いたりすると、休眠状態を経ないで成長し、開花してしまうものと考えられます。
 以上のように、狂い咲きは花芽の分化ではなく、花芽の成長と関係したことです。花芽の形成は植物が次世代に生き残るための重要な過程ですから、異常気象など様々なストレスがあると、早く花を咲かせて、種子を作ろうとする状況がしばしばみられるようです。花芽の形成(分化)は日照期間や温度によって調節を受けていることが多いのですが、この際ホルモン様の物質が関わっていることが長い間信じられて、それを追求する研究がおこなわれてきました。しかし、ABAやジベレリンやその他の植物ホルモンのような単純な化合物ではないようです。花芽形成に関しては質問コーナー0562と1082も参考にして下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2006-11-17
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