一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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樹幹流と泡の関係について

質問者:   一般   non
登録番号2065   登録日:2009-09-04
降雨時、樹の幹を流れる雨水=樹幹流の観察をしていると、しばしば樹の根元部分に白い泡が立っているのを目にすることがあります。この泡はどうしてできるのだろうか、どのような成分なのだろうかと思い、いろいろ調べてみたのですが、はっきりとした答えを見つけることができませんでした。私の近所では、特に樹種に関係はないようで、いろいろな種類の樹に見られます。樹液説があるとも知りましたが、私の見たものでは特に樹液が出ている様子はありませんでした。一説に、樹幹流は高分子となり、表面張力が弱められるために、根元で泡となる(泡が立つ)との説明があるというのですが、意味がよくわかりません。雨水が高分子になるとはどういうことなのでしょう。また、高分子になった水の表面張力は、どうして弱まるのでしょうか。さらに表面張力が弱まるとどうして泡が立つのでしょうか。お答えを頂けましたら幸甚に存じます。どうぞよろしくお願い致します。
Non 様


本コーナーへ質問をお寄せ下さり有り難うございます。ご質問には森林総合研究所の松浦陽次郎博士が専門的なお立場からデーターを交えて詳しい回答を用意して下さりました。ご参考にして下さい。


(松浦博士からの回答)

樹幹流は、林冠の枝葉に付着した乾性降下物や湿性降下物を溶かし込んで幹を流れくだります。前の降雨からの無降雨期間が長いほど、樹幹流に溶け込む物質量は多くなります。また、降雨時の総降水量が少なければ、樹幹流の物質濃度は、林の外で採取する降水(林外雨)の数倍から数十倍にもなり、低いpHとなります。
 

樹幹流にはしばしば、薄めた水割りウイスキーのような色が付きます。色の正体は有機酸と思われますが、その実体や樹幹流の成分については十分な解析がなされていません。TOC(全有機炭素)濃度が、林外雨で数mg/Lであるものが、樹幹流では数10mg/L、時には100mg/Lを越えます。幹を流れくだるにしたがい色は濃くなり、薄めた水割りから紅茶色になることもあります。


酸性雨被害地の大径木の樹皮を剥がして、水に浸して浸出するTOCを測定したところ、2時間浸出した場合は、ほとんどが分子量10000以上の物質でしたが、96時間浸出した場合には、総TOC量は樹皮100cm2あたり約50mgC(炭素)、2時間浸出時の4〜5倍になりましたが、TOCの4〜7割は分子量10000より低い物質でした。


さて、お尋ねの「樹幹流の泡立ち」の件ですが、樹幹流に高分子物質が溶存しているのは確かでしょう。しかし、表面張力や界面活性等の物理現象で泡立ちが説明できるのではないでしょうか。一般に、樹幹、木の根元は通常乾き気味で根際は盛り上がっています。そこには、樹皮の剥離した破片等が混ざった表層土壌があり、乾燥した有機物が特有の撥水性を持つため、水が流れるとその粉体物質は溶存せずに浮き上がって膜を作ります。樹幹流が発生するようなかなりの降雨があったときに、根元でそのようなことが起こっているのではないでしょうか。子供が砂場で水を流して人工の水路を造って遊ぶと、ドロ水の先端に泡状のものができますが、その現象と類似したものと考えられます。


松浦陽次郎(森林総合研究所・立地環境研究領域・土壌資源研究室)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2009-09-11
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