一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ナトリウム吸収率

質問者:   その他   高橋
登録番号0484   登録日:2006-01-24
はじめまして。初めて質問いたします。

肥料の成分について調べているのですが、ナトリウム吸収率と言う表示があるのですが、一般植物においてはどのくらいが望ましいのでしょうか?
また、ナトリウムということは塩分ということなのでしょうか?
水溶性塩分とは別のものになるのでしょうか?

基本の質問かも知れませんが、独学ですので、混乱しています。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
高橋さま

 長らくご回答ができずにすみませんでした。
 ナトリウム吸収率という言葉は、今まで聞いたことがなかったため、専門家の先生にうかがっていたのですが、植物の働きを調べている私たち植物生理学の分野でも、植物の栄養環境などについて調べている植物栄養学の分野でも、あまり一般的な用語ではないようです。
 それで、植物の耐塩性を専門にされている京都大学の間藤先生から、以下のご回答をいただきました。ちょっと難しいことばが出てきますが、当量というのはとても大雑把に言ってそれぞれの原子の数に比例する値だと思って下さい。


日本語でナトリウム吸収率というのは初めて聞きますが、おそらく SAR sodium absorption ratios のことではないかと思います吸収というより吸着ですね。特に灌漑水にナトリウムが多いところで水質を判定するのに用いられています。

定義は
SAR = Na/ [{ (Ca + Mg) x 1/2}の平方根]
です 単位は当量Na当量を Ca当量とMg当量の和の半分の平方根で割ったものがSARになります。

したがってこの値は低ければ低いほどよいということになり、ナトリウムが高いときにはSARを計算して灌漑水使用量の上限を調べることになります。しかし実際に私たちが普通つかうのはNa/Caのモル比で、この値が2まではCaの増施効果があることになっています(もちろんNa+Caの総量が問題ですが)。したがってご質問の趣旨に照らして考えると一般の作物ではこの値は低い方が良いになるかと思います。

 間藤 徹(京都大学)

 また、その他のご質問についてですが、

 植物科学の分野で塩といえば、一般的には塩化ナトリウムを指すことが多いと思います。しかし、塩類土壌に含まれている塩は塩化ナトリウムだけではありません。例えば、塩類土壌に主要なものとしてナトリウム、カルシウム、マグネシウムなどが塩化物や硫酸塩、時には硝酸塩として存在しています。また肥料の表示にある「水溶性成分」とは水に溶ける肥料成分のことを示しており、つまり水溶性塩分とは上記に示したような塩分などで水に溶けるもののことでしょう。

 一般に、植物は人間と違って、ナトリウムを必要とはしていません。むしろ塩化ナトリウム濃度の高い環境では、作物の水分吸収を妨げ、生育が悪くなってしまうことは良く知られています。しかし、塩害に対しては、耐性の高い植物から低い植物までさまざまです。例えば、インゲンマメ、ニンジン、イチゴ、タマネギなどは耐塩性が弱く、0.05-0.1%が減収を伴わない土壌の塩類濃度の範囲とされているようです。ソラマメ、トウモロコシ、サトウキビ、キャベツなどは0.1-0.2%、カボチャやズッキーニなどは0.2-0.3%、ダイズやササゲ、ミヤコグサなどは0.3-0.4%、オオムギやテンサイ、ワタなどは非常に耐塩性が高く、0.4-0.5%の濃度となっています。また、アカザ科の植物で作物として栽培されているビートは、ナトリウムの施行効果が認められています。
ビートは北ヨーロッパでは砂糖原料や飼料として重要な植物で、食塩や硝酸ナトリウムがナトリウム肥料として施用されることがあります。他にもサトウダイコンやセロリ、カブラなどの特定の植物に対してナトリウムを与えた場合に生産量が増加するようです。こうして、ナトリウムはその元素がなくては正常に育つことができなくなるという必須元素ではなく、特定の植物(例えばビートなど)に特定の条件下で有用な働きをすることがある元素といえるかもしれません。ただ、何故特定の植物にナトリウムが有効に作用するのかは良く判っていません。

柳楽 めぐみ(奈良女子大学)
神戸大学
三村 徹郎
回答日:2006-11-20
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