一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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切花延命剤に含まれる糖分の役割は?

質問者:   自営業   博行
登録番号1004   登録日:2006-08-23
切花の延命剤に含まれる糖分の役割は何でしょうか?
切花はただ水に挿しておくより、切花の延命剤を入れておくと長持ちします。
その成分は主に、殺菌剤と糖分だと思うのですが、その糖分の役割はなんでしょうか?

植物の細胞でエネルギーとして使われるのでしょうか?
浸透圧の関係でよりたくさん細胞が水を吸って花が大きくなると聞いた事があります。
ただ浸透圧で水をたくさん吸わせるなら、純水を入れておけば一番良いと思うのですがいかがでしょうか?
よろしくお願いいたします。
博行 さん:

切り花は母体から切り離された時点から、根が果たしていた栄養素の供給が絶たれるため、老化の道を辿りはじめます。室内の明るさでは光合成による糖の補給も十分でありません。老化は植物ホルモンと糖で調節されており、古くから、切り花や切り取った緑葉に3〜5%程度のブドウ糖やショ糖などを与えると延命効果(老化の抑制効果)のあることが知られています。切り花の多くは、完全開花前のものが商品とされていますが、開花はとてもエネルギーを必要とする過程ですので、糖の供給はたいへん効果的なものです。特に、キンギョソウのように、次から次へ開花する切り花には効果的とされています。ですから、ご指摘のような浸透圧調節というよりもエネルギー源、細胞の状態を正常に保つ作用を果たしています。老化を抑制する植物ホルモンとしてサイトカイニンやオーキシン、老化を促進する植物ホルモンとしてエチレンが知られていますが、抑制に働く植物ホルモン(サイトカイニン、オーキシン)を外から与える利用法はたいへんに難しく実用化されていません(RNAの分解物を含む製品がありますが、おそらくサイトカイニン作用を期待しているのでしょう)。しかし、植物体自身が作っている(しかも老化しかけると合成が盛んになる)老化を促進するエチレンは、その作用を抑制することで延命効果があります。今から20年ほど前にエチレン作用を効果的に抑制するものとしてSTS(チオ亜硫酸銀)という、切り口から吸収され、容易に植物体内を移動する銀イオン剤が開発され広く切り花の延命剤として利用されています。カーネーション、スターチスなどでは特に効果的とされています。ですから市販の切り花延命剤には2つのタイプがあります。1)ブドウ糖、ショ糖、マンニトールなどの糖類と抗菌剤を組み合わせた製品と2)切り花の老化を促進する植物ホルモンであるエチレンの作用を抑制する銀イオン剤(STS)です。しかし、どちらもすべての種類の切り花に効果があるのではなく、効果のある場合、ない場合があり、前者では切り花の種類に応じて糖類と抗菌剤の種類の処方がたくさんあります。STSは幅広い種類に効果がありますが、与え方などで効果のない場合も多く報告されています。切り花の寿命はカビ、細菌などの繁殖による通導組織の「詰まり」などが大きく影響しますので、ほとんどの延命剤製品には抗菌剤が加えられています。1と2を組み合わせたり、その他の成分を加えたりして特徴ある製品が多数あります。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2006-08-28
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