一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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国や地域・環境によって異なる植物の模様について

質問者:   高校生   いっつ
登録番号1005   登録日:2006-08-23
初めての投稿とさせて頂きます。

以前に学校で講師の方を呼んでのザゼンソウについての講義が開かれたのですが、その時に写真で見た日本に自生しているザゼンソウの色(野生型)が赤であるのに対し、外国のザゼンソウの色は赤と緑等の斑点模様になっていました。
これは、ザゼンソウのみに限ったことではなく、食虫植物や普通の植物等でも、外国のものは比較的斑点模様をしている様に思えます。
一体何故、その様に地域によって模様が変わってくるのかをその時の講師の方や学校の生物の先生に尋ねてみたのですが、恐らく地域ごとの環境が違うから、場所に応じて遺伝の仕方?もまた違ってきているのではないか、といったような内容のことを言われました。
環境によってその植物の特性が変わってくるのは分かるのですが、何故模様までもが変わってしまうのか(例えば同種の植物でも、アメリカでは赤と緑の斑点/日本では緑一色、等)。
その点に関してはよく判らない、という事でしたので、今回ここで質問させていただきます。

乱筆・乱文ではありますが、何卒よろしくお願いします。
いっつ さま

 みんなの広場へのご質問ありがとうございました。いただいたご質問の回答を東京大学の塚谷裕一先生にお願い致しましたところ、以下のような回答をお寄せ下さいました。参考になるに違いないと思いますので、しっかりと読んで下さい。


いっつ さん

 質問を拝見しました。本当に地域差は気になりますね。問題を最初に整理しておきましょう。 「地域ごとに植物には斑紋の程度の違いがあるようだが、それはなぜか。」ということですね。
 実際のことを言うと、斑紋があるかどうか、というよりは、いろいろな点で地域差が見られます。日本産のものと、海外の近縁種とを比較すると、まずたいがいは日本産のものの方が色合いが渋いですね。斑紋が無くても、色の鮮明さに違いがあるのです。これは1つには、日本が本来、森林帯であったことと関係しているのではないでしょうか。日本にもともと自生している植物の中で、花色が鮮やかなものは、そう多くありません。これは、鮮やかな花色というものが、本来、訪花昆虫や鳥にアピールするためのものだからで、しかもそういう視覚的アピールが有効なのは、明るくて視野の開けた土地に限るからです。そのため、日本では海浜や高山帯のように、木の茂らないところに行かないと、ぱっと見たときに色鮮やかに感じるような花々が咲いていません(逆に、だからこそ、みんな山に登って高山帯のお花畑を見に行くわけですね)。あるいは夏緑樹林の場合のように、未だ新緑の季節で、林床に日が差し込む短い期間にだけ、華やかな花が見られるわけです。それでも日本の本州は急峻な地形が多く、同一環境が広々と広がるような土地はありません。そのため、視覚的なアピールを競うようなことが起きなかったのでしょう。
 その点、大陸ではもっと広い土地があります。土地が広ければ、争奪戦も熾烈になります。視覚的アピールを競ううちに、花色もとぎすまされるのでしょう。斑紋はその際の工夫の1つの手段だったと思われます。
 ・・・と、一般論からすればこういう説明になるかと思いますが、まだまだ他にも要素があるようにも思えます。例えば庭に植えるような園芸植物の1つ1つの原産地を知っていますか。南アフリカ原産のものが非常に多いのです。グラジオラス、カラー、デモルフォセカ、キルタンサス、ガーベラ、マツバギク、アッツザクラ、ワトソニア、プロテアその他その他・・・。これは、現地のサバンナに行ってみると納得しますよ。野生の草むらが、そのまま何もしないでも非常に鮮やかな、それも原色系の色の花を咲かせているからです。
 これほどまでに鮮明な、原色ばかりの花畑が進化したのは、なぜでしょう?サバンナで強い光のもと、広々と見渡せる環境なのは事実です。でもそれだけでしょうか。同じように園芸植物の宝庫であるメキシコ(ダリアやコスモスなどの原産地)も、色とりどりではありますが、南アフリカのように原色ではなく、むしろややパステルカラー系です。またヒマラヤの高山帯も、広々としていますし、有名な青いケシで代表されるように、青や黄の美しい花がたくさんありますが、でも南アフリカのような鮮紅色やショッキング・ピンクはありません。ですから、南アフリカには、何か、鮮やかな色を促す要因が他にもあったのではないかと思われます。それが、日本では欠けていたのでしょう。
 ところで植物の地域差は、こういう広い範囲のものばかりではありませんし、またわかりやすい例ばかりではありません。例えば、梅雨時に黄色い甘い実をならすキイチゴ(モミジイチゴ)をご存じですか。あれは、東日本では葉が名前の通りモミジのような形をしています。ところが西日本では、葉の裂片が横に伸びず、単純な細い形をしていて、ナガバモミジイチゴと呼ばれています。なぜ、関東と関西で葉の形が違う必要があったのでしょうか?実は、こんな変な例はたくさんあります。地域差といっても、日本と外国というばかりでなく、日本の国内、あるいは極端な場合、山ごとに、といったレベルのものまでいろいろあります。その原因は、おそらくケース・バイ・ケースなのではないかと思います。上記の説明は、その中で、比較的、一般的な見方からのものとして紹介しました。これからもその点、気をつけて観察を続けてみてください。新たな進化の理論が見つかるかもしれません。

塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2006-08-28
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