一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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野菜から紙を作る研究について

質問者:   中学生   さくら
登録番号1019   登録日:2006-08-30
中二の女子です。

野菜から紙を作る研究をしています。
キャベツを切ってミキサーにかけた後、10分間煮た後紙をすくと、透き通ってしっかりした強い紙が出来ました。
どうして煮ると、こんなふうに強い紙になるのでしょうか。

また、キャベツにレモン汁1個分を入れてからミキサーにかけると、厚めで強い紙が出来ました。
酸性になることと何か関係があるのかなと思いましたが、調べてもよくわかりません。
アルカリ性もやってみようと思い、学校で習ったのでキャベツに石鹸水を入れてミキサーにかけてから、紙をすきましたが、これは白く柔らかでじょうぶな感じの紙になりました。
どうしてこんなふうに違いが出来るのかと自分で調べてみましたが、よくわかりません。

不思議でたまらないので、どうぞこうなるわけを教えてください。よろしくお願いします。
さくらさま

 みんなの広場へのご質問有難うございました。頂いたご質問の回答を、紙の主成分のセルロースを含む植物の細胞壁の研究をなさっておられます、大阪市立大学の保尊隆享先生にお願いしましたところ、以下のような回答をお寄せ下さいました。植物材料と紙との関係が詳しく説明されていると思います。すこし専門的な言葉も含まれていますが、しっかりと勉強して下さい。

保尊先生のご回答
 さくらさん。野菜から紙を作る研究、おもしろそうですね。
紙はセルロースという繊維性の多糖からできていますが、セルロースは植物細胞を包む細胞壁の主な成分です。私たちがふだん使っている洋紙の場合は、木材を粉砕したパルプからセルロース以外の成分を溶かし出して作られます。残った不純物の割合が少ないほど、白く薄く丈夫な紙になります。したがって、紙の材料としては、もともと不純物が多く含まれる野菜より、木材が重宝されるわけです。不純物には細胞内含有物とセルロース以外の細胞壁成分がありますが、細胞内含有物は紙を漉く過程でほとんど取り除かれますので、紙を作る上では他の細胞壁成分が特に問題となります。試された3つの条件は、セルロース以外の細胞壁成分を取り除く程度に差があり、それができあがった紙の性質を決めたのだと思います。すりつぶしたキャベツを煮るのと酸性に置くのは、いずれもペクチンという、ジャムの物性を決めるのに関わる細胞壁多糖類を取り除く方法です。煮る方が酸性に置くだけよりも効率がよく、酸性下で煮ればさらに効果的です。しかし、それでも、ヘミセルロースという、セルロースと強く結合した多糖類がまだ残っています。これをアルカリ性にさらすことにより、ヘミセルロースも溶かし出され、最も市販の紙に近いものが得られます。なお、木材から紙を作る際の主な不純物であるリグニンも細胞壁成分ですが、これは野菜には少なくてあまり問題になりません。実際の紙の性質には、このような不純物の割合ばかりでなく、セルロース繊維の長さ、太さ、及び密度、さらには漉き方や安定化剤の種類なども影響します。材料や方法を変えて、いろいろな性質の紙作りを楽しんでください。

保尊 隆享(大阪市立大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2006-09-09
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