一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物細胞と動物細胞

質問者:   大学生   アオミドロ
登録番号1067   登録日:2006-10-03
植物細胞と動物細胞の構造の違いは、それぞれ身体の作りにどのような
影響を与えたのですか??
教えてください。お願いします。
アオミドロ さま

植物は太陽エネルギーを固定しCO2から有機物を生産していますが、太陽光を効率よく受け取るため広い表面積の葉をもつ必要があり、この光合成装置を移動させるのは不利なため一箇所に留まって生育しています。一方、動物は食料を得るため移動する必要がありそのために運動に都合のよい骨格組織が発達しています。(動物と同様に食料をCO2から合成できない多細胞生物である、真菌のグループの生物(キノコ、カビなど)は、動物と異なり動くことはできませんが多くの細胞が食料を吸収、摂取できるようにして、食料を獲得できる面積を広げています)。

植物は動く必要がないため特別な骨格組織をもっていませんが、しかし、動物より大きな体(北米のセコイヤなど100m以上の高さ)を支え、長い年月(ヤクスギのように数千年)の間これを維持することができます。これは植物細胞が動物細胞と異なり細胞壁をもっているためです。植物細胞では原形質膜の外側にセルロセース、へミセルロースから構成される細胞壁があり、さらにその外側にスベリン、クチンリのような脂質、さらにリグニンが結合し、また、細胞壁同士はペクチン質で強固につながっています。このため、ヒトの体を指で押さえることができても、リンゴを指で押さえることができないように、植物組織は動物組織に比べ堅い(弾力がない)のが特長です。これは動物細胞が細胞壁をもたず、動物の組織では細胞が原形質膜を隔てて積み重なり、それが骨格にくっついているのが基本的な構造であるためです。
原形質膜の内側にある細胞小器官などについて、動物細胞と植物細胞には基本的に大きな差はありません。葉の組織細胞には、動物細胞にはない葉緑体があるのが大きな違いです。さらに、成熟した植物細胞では液胞が細胞の大部分の体積を占めるようになるのも植物の特長です。植物の液胞に相当する、加水分解酵素を含む動物細胞のリソソームは余り大きくはなりません。なぜ、植物細胞で液胞が大きいか、液胞の役割については、本コーナーのこれまでの回答(質問登録番号0246、登録番号0619、登録番号0974)をご覧下さい。
植物細胞と動物細胞のもう一つの大きな違いは、細胞活動を終えた後の細胞の運命です。動物では活動を終えた細胞は分解して消失してしまうのが一般的ですが、しかし、植物の場合、活動を終えた細胞は消失することなく、細胞の内部の細胞小器官が分解しても、細胞壁を死細胞である木部の組織として残し、この木部が植物の構造を支えています。これは小さな一枚の葉でも、100mを越す大木でも、基本的に木部が植物の構造要素となっています。鉄筋コンクリート建物の寿命からみて、この木部が数千年の間、分解を受けることなく、大きな樹木を支えることができるのは、驚くべきことです。1200年前に建てられた法隆寺の建物が今も美しい姿を残しているのも、植物細胞壁がいかに優れた素材であるかを示しています。

植物細胞の動物細胞との違いについては、これまでこの質問コーナーで多くの観点から議論されています。上に示した回答以外に、質問登録番号0074、登録番号0601、登録番号0666、登録番号0696、登録番号0739の回答にも解説がありますので、それらもご覧頂き、二つの生物の興味ある差異についての理解を深めて下さい。

浅田 浩二(JSPPサイエンスアドバイザー)
 
回答日:2006-10-05
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