一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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花が咲くようになった年とその前までの年の違いは?

質問者:   一般   nakamura
登録番号1285   登録日:2007-05-29
 樹木などでは木が花が咲くまでに何年かかかるものが多いですが、
諺で桃栗三年柿八年という言葉があります。その諺が正しいとして、
種から育てた柿が8年目の春に花が咲いたとします。すると7年目には咲かなかった
事になりますが、初めて枝に花芽が分化した年の枝と、その前の花芽が分化しなかった枝では、何が違ったのでしょうか? この枝は自身の何の変化に
反応して花芽が分化したのでしょうか?

よろしくお願いいたします。
nakamuraさま

みんなの広場へのご質問有難うございました。頂いたご質問の回答を、花芽形成のご研究を続けて来られた新潟大学の和田清俊先生にお願いいたしましたところ、以下のような、回答をお寄せ下さいました。頂いたご質問はとても難しい質問で、全てが解明された問題ではないのですが、幼若期を維持する遺伝子など、興味を持って読んで頂けるのではないかと思います。

和田清俊先生のご回答
どのような植物でも、その一生の始めには、体全体が大きくなるような成長をして、ある程度大きくなってから初めて、花を咲かせます。特に木本植物では、花を咲かせるまでの期間が長く、数年かかかることも普通で、花を咲かせることの出来ない期間を幼若期と呼んでいます。幼若期の著しく長い例が、リュウゼツランやタケの仲間で、100年近く続くものもあり、センチュリープランツとも呼ばれます。この幼若期の長さは環境によって変わるものではなく、タケでは、株分けされた個体が、異なる場所で育てられていても、ある時期に同時に花を咲かせることがしばしば観察されることから、植物自身に幼若期の長さを決める仕組みがあるものと思われます。これが、ご質問の、カキに花芽を分化させるものです。リュウゼツランは、イチゴのように、枝分かれした先に若い苗を発生させるので、開花時期に至った巨木のかたわらに若い木が生えていることがあります。この若木は親木とつながっています。さて、花が咲くまでの時間が80年とも、100年とも言われるリュウゼツランの開花を見たことがありますが、このとき興味深かったことは、花茎を伸ばした巨木の脇に生えている小さな若木も立派に花茎を伸ばしていたことです。親木の体内で生じた花を咲かせる物質が、つながった枝を通して子供に移動し、子供にも花を咲かせたのです。タケが開花するとき、一叢の竹藪が一度に開花するのも、タケたちは地下茎でつながっているからです。このように、植物は花を咲かせる物質を作り、それによって花を咲かせています。
では、これは、しばしば話題に上るフロリゲンでしょうか。フロリゲンは短日植物とか、長日植物というような、日長時間に反応して花芽を分化する植物の葉で作られる、花を咲かせる物質のことです。これに対して、幼若期の長い植物たちが作る、花を咲かせる物質が、日長時間に反応して作られるのかどうか、植物のどの部分で作られるのかなどは分かっていないので、これをフロリゲンと呼んでよいものかどうかは分かりません。さて、どのような植物にも幼若期があるのですが、なぜ幼若期には花は咲かないのでしょうか。シロイヌナズナという植物では、EMBRYONIC FLOWER (EMF) と名づけられた遺伝子が見つかっています。この遺伝子が働かなくなった突然変異体は、非常に早く開花します。このため、EMF遺伝子は幼若期を維持する遺伝子だと考えられています。シロイヌナズナが種子から発芽して、だんだん大きくなり、花を咲かせる時期に近づくにつれて、この遺伝子の働きはだんだん弱くなっていきます。そして、すっかり働かなくなったときが幼若期の終わりだと考えられます。モモ、クリ、カキでもこのような遺伝子が幼若期を維持しているのかもしれません。

和田 清俊(新潟大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2007-06-11
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