一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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原形質流動の原動力について

質問者:   その他   ちった
登録番号1542   登録日:2008-02-18
先日生物の問題集をやっていたところ、原形質流動の問題が出てきました。リード文のお陰で解答には支障はなかったのですが、原形質流動の原動力は何か?という疑問が残りました。自力で調べたところ、「原形質流動には、一般にアクチンとミオシンがかかわっている。細胞内にレールのように配置されたアクチンフィラメントに沿って葉緑体が移動したり、細胞小器官に結合したミオシンがアクチンフィラメントの上をすべり運動するような仕組みが考えられている。」とありました。この内容から下のような疑問が出てきました。

前半について;葉緑体の表面にはミオシンが結合しているのか?
後半について;すべり運動とは何か?

ご指導よろしくお願いします。(筋収縮については既習です)
ちった様

みんなの広場へのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を、原形質流動の研究をなさっておられる、大阪大学の高木慎吾先生にお願いいたしましたところ、以下のような回答をお寄せ下さいました。回答の中にもありますように、ちったさんが抱いた疑問は今正にこの研究の中心的な問題に関わる疑問のようです。これをきっかけに、ちったさんがこの分野の研究に入って来られると嬉しいです。

素直で本質をついた素晴らしい疑問だと思います。まず、「みんなのひろば質問コーナー」の検索機能を使って、「原形質流動」という語句で検索をかけてください。過去の質問がいくつか出てくると思いますが、登録番号0087「葉緑体?」という質問に対する回答を読んでください。運動の仕組みについて、基本的なことを理解してもらえると思います。
葉緑体の表面(外包膜)にミオシンが結合しているかもしれないという内容を報告した論文はいくつかありますが、多くの研究者を納得させるだけの証拠をそろえた論文はありません。従って、現時点では、その考え方は一般的には支持されていません。ただし、ミオシンがATPを加水分解する活性を抑制してしまうような薬品を植物細胞に与えると、葉緑体の運動は止まります。従って、葉緑体の運動にミオシンが何らかの役割を果たしていることは、多くの研究者が認めています。わからないのは、そのミオシンが細胞内のどこにあって、どのようにアクチンフィラメントと相互作用して葉緑体を動かすのかという点です。

>>後半について;すべり運動とは何か?

「すべり運動」は、原形質流動に限って使う言葉ではありません。元々、筋収縮の仕組みについて「すべり説」が提唱され、ミオシン分子(筋肉の場合はミオシンはフィラメント状に集合している)がATPを加水分解しながらアクチンフィラメントに沿って移動することが実験によって証明され、「説」ではなくなりました。また、それらの研究から「モーター蛋白質」という概念が生まれました。筋収縮のモーター蛋白質であるミオシン1分子とアクチンフィラメントとの間で、どのような相互作用が起こってすべり運動が実現するのかについては、未だに完全には解明されていません。
その後、微小管(細胞分裂時の染色体の分配などに働くフィラメント状の構造)についても、ミオシンとは別のモーター蛋白質が存在し、微小管に沿ってすべり運動を示すことがわかりました。すべり運動とは、ATPのエネルギーを運動に変換するために生物が採用した原理の一つであると考えることができると思います。
参考書:「細胞の運動」(神谷律、丸山工作)培風館

高木 慎吾(大阪大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2008-02-29
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