一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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果実の着色について

質問者:   自営業   hide
登録番号1668   登録日:2008-06-25
私は「さくらんぼ」「もも」「りんご」を生産する農家です。どれも赤く着色する品種を多く作っており、また、いくら大玉の果実を生産できても着色がうまくいかないと価値が低下しますので、「果実の着色」には大変苦慮します。
どの果実も気象条件の影響を大きく受け、ある年は過剰に着色して結果的に軟質果実が多かったり、ある年は、着色がほとんど進まず(黄色への)成熟だけがすすんだりまたは、着色も成熟もなかなか進まなかったりします。
よく考えてみると「果実の着色メカニズム」がよく分かっていないんですよね。
紅葉同様の昼夜の寒暖差が影響すること、「赤」がアントシアニンであることなど、エチレンにより熟成が進むことなど、基本的なことは分かっているつもりですが、理論的なメカニズムとなると全く未知の領域です。
かなり漠然とした質問であることはよく分かっているのですが、果実が緑色から赤へ変化するメカニズムをご教授いただけましたら幸いです。
Hide さま

果実の果皮がどうして着色するのか、については、生物的にはいろいろの仮説があります。果実が成熟するときアントシアンなど鳥などの目につきやすい色素を合成して鳥をひきつけ、果実の種子を広くまいてもらうためであるとするのがその一つです。ご質問にあるように葉の紅葉との類似性からも、果実の着色が考えられています。葉の紅葉の一つの機能として、秋になって温度が低くなり葉緑体の光合成能が低下しますが、しかし、まだ太陽光の照度が余り変わらない期間、葉緑体は光が強すぎるため強光ストレスを受けやすくなります。強光ストレスの下では活性酸素などが生じやすく、そのため葉緑体の機能が低下、光合成が阻害されます。そのためアントシアニンを合成して太陽光のフィルターとし、紅葉によって葉緑体が強光ストレスを受けないようにしていると考えられています。紅葉が顕著に見られるのは、秋に低温と快晴が続いたときに多いことも、この考えを支持しています。

果実も、葉と同様、成熟してアントシアンニンなどで着色するまでは、果実は緑色をしていることが多く、これは果実の表層に葉緑体があり、この光合成産物も果実の肥大に寄与しているはずです。これをできるだけ長期間、太陽光が強い間でも続けるために、アントシアニンを表層の細胞で合成し、このフィルター効果によって強光ストレスを避けていると考えられます。一般に、果実の着色も、紅葉と同様、快晴であって高い太陽光照度が必要なように思われますが、これも、果実の着色の一つの生理機能が、強光ストレスを緩和することを支持するように思えます。ヨーロッパで赤ワインの原料となるアントシアニンを多量に含むブドウは、フランスなど南の太陽光の強い地域で栽培され、白ワイン原料の、アントシアンを含まないうす緑色のブドウはドイツなど北の方で栽培されていることも、強光ストレス緩和にアントシアニンが関与している一つの証拠と思われます。なお、ウバメガシなど、春の新芽によくみられるアントシアニンによる赤い色も、葉緑体が紫外線や強光ストレスに耐えられるようになるまで、太陽光のフィルターになっていると考えられています。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2008-08-20
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