一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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甘藷の塊根の分化について

質問者:   自営業   はまこまち
登録番号1778   登録日:2008-09-10
サツマイモのことを色々調べていて”塊根の分化”というワードが出てきました。定植30日後までにこの塊根の分化ができ、芋となる根(塊根)がこの時点できまるとありました。ここで質問なのですが、塊根の分化の意味と、この塊根の分化の条件(芋となりうる根を多く作るための)があるのでしょうか?
はまこまち さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
たいへんむずかしい問題です。昔、サツマイモを研究材料に使ったことがありますので、そのとき調べた塊根形成に関する論文、そしてその後の研究成果のいくつかを読み直していて回答が遅れました。
まず、最初のご質問「塊根の分化の意味」ですが、字句通りに解釈すれば、栄養吸収の働きを持っている通常の根(サツマイモでは細く白い根が主です)が、デンプンを蓄積するような働きを持った細胞をたくさんつくるような塊根形成根へと変化することです。このように、細胞や器官の働きや形が変化することを分化といっています。サツマイモをはじめジャガイモ、ハス、いも類、鱗茎類などの植物は有性生殖の他に茎、根から次世代を無性的に形成して繁殖する栄養繁殖を行います。この次世代の初期成長の栄養分としてデンプンなどを貯蔵する意味をもつものです。そこで、次のご質問「塊根分化の条件」については、過去数十年の間にたくさんの研究がありまが、決定的な条件は分かっていません。ジャガイモの塊茎形成については、ホルモン様の塊根形成因子が発見されていますが、サツマイモではそのような因子は見つかっていません。しかし、サツマイモの塊根はどのような仕組みで肥大していくかを形態学、生理学、環境学などの側面からおこなった研究が多くあり、それらを総合して考えてみます。
サツマイモの根は、細く長い根、鉛筆状の根といも状の塊根の3種に区別されて論議されています。茎から出る根は、最初はみんな細く長い根ですが、そのうちのいくつかは早い段階で維管束を含む中心柱の細胞がリグニン化され、それ以上肥大できなくなりもっぱら栄養吸収を行います。残りの根は維管束形成層の活動が活発になり篩管要素、導管要素ばかりでなくたくさんの柔細胞を作って肥大成長をはじめます。同時にアントシアン合成がおこり最外層が着色します。しかし、その中のいくつかは途中でリグニン化がおこり、肥大作業を止めてしまいます(鉛筆状の根)が、残りの根では維管束形成層の活動で生じた細胞から二次的な形成層ができて活発な細胞増殖を繰り返して肥大していきます。これが塊根になる根です。植物の細胞分裂や細胞肥大にはサイトカイニン、オーキシンのような植物ホルモンが関与していますが、それを裏づけるように、塊根となる根の中のサイトカイニンやアブシシン酸、インドール酢酸の量は、塊根とならない根よりも多いことが報告されていますし、実際にサイトカイニンを与えると塊根形成が促進されるという報告もあります。このように、維管束形成層や二次的形成層の活動で柔細胞が激増すると、葉から物質(ショ糖や窒素化合物など)を吸収する力が生じてショ糖が塊根形成根へ大量に運ばれ、貯蔵デンプンの合成がはじまります。根にショ糖が与えられるとデンプン合成に重要な酵素活性が増加しますし、それらが信号となって葉における光合成活性も増加することも分かっています。塊根形成が促進されるような最適温度や最適湿度条件などは調べられていますが、たくさんの根の中から塊根形成へ向かうためには内部の植物ホルモンのバランスが整い、それが決め手となって遺伝子の発現を制御し、リグニン化の抑制、形成層活動の継続を保持しているように思われます。今のところ、種苗を人為的にこうしたら塊根形成根が増加し、収量増加につながる妙手はないようです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-09-17
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