一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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つる植物の進化について

質問者:   一般   りさ
登録番号1826   登録日:2008-10-28
小学校で1年生の担任をしています。
生活科の授業でアサガオを育てたことから「つるの植物の進化」についての授業を作ろうと取り組み始めました。
私が一番興味深い点は「どうして上に這い登るつ(アサガオ、へちま)などと地を這うつる(かぼちゃ、すいか、さつまいも)などに分かれているのか?」
という点です。

・よじのぼり植物 渡辺 仁(訳)
・ダーウィンと進化論 渡辺正雄(著)
・植物の進化形態学 加藤雅啓(著)
・ダーウィン進化論の現在 養老孟司(著)

など夏からずっと色々な本を探っているのですが見つけることができません。
やっと見つけ出した文献が上記のものでした。

「上によじ登るつる」は太陽の獲得競争に勝った遺伝子を持つもの
方や「地を這うつる」はその競争に負けたものと判断すればよいのでしょうか?

でもひとつ疑問があります。
できる果実が重い植物のつるは地を這っているとも判断できるからです。
植物自身が自分がつくる果実によって地を這ったり上に伸びたり「自然選択」しているのでしょうか?

日常の授業から一歩踏み込んだ授業を目指しています。
子ども達に植物の不思議に科学的な目を向けて欲しい。という希望も持ちこの授業の制作を決めました。

参考となる文献でも結構なので是非、是非教えて頂きたいです。
どうぞよろしくお願い致します。
りさ さん

お待たせしました。つる性の進化について進化を研究されている基礎生物学研究所の長谷部光泰、JSPPサイエンスアドバイザーの柴岡弘郎(植物生理学)、東京大学の寺島一郎(植物生態学)の諸先生からいただいた諸情報を私がまとめてお答えします。

大型の陸上植物は裸子植物が、ついで被子植物が繁栄しますが、はじめは木本が中心でその中から草本が進化してきたと考えられています。木本が繁栄できない環境をねらって草本が現れたと解釈されています。植物は光合成で生活を支えていますので光を求める習性が強く、木本は上へ上へと伸びて光を求めるのに対し、草本は木本が定着し得ない地盤が悪い空間、木本がお互いに競争しあって開いた空間などでの生存様態として選択されてきたものと考えられます。木本も草本も光を確保するための形状を確保するために投資をしています。しかし、木本、草本の隙間というか、それらの形状を利用して光を確保するように進化してきたものがつる植物です。自分で自分の体を支える丈夫な茎をつくらず(投資が少ない)、弱いけれども長く伸ばして他の物に絡みついて上へ上へとのび光を得ようする形です。他のものへの絡みつき方も、巻き髭で巻き付いたり、鈎や刺で引っかけたり、吸盤状の根で吸い付いたり、茎を螺旋状に巻き付けたり、といろいろに進化しています。つる植物の進化は、被子植物の大半ができあがった後で、いろいろな系統群の中で独立に起こったと考えられています。そのため、つる植物は特定の系統群に集中していませんし、木本にも草本にも見られます。共通していることは、茎の伸長が大きく、自分では支えられないこと、長い距離の輸送に見合うように太い維管束をもつことです。森林のように光を奪い合う環境ではよじ登ることになりますが、草原や畑地など光を遮る対象のない環境におかれればよじ登る必要がありませんから地を這いまわることになります。森林などでも地面を這っているつる植物はいくらでもありますし、樹木などに達すればよじ登っています。植物学的によじ登り植物、這いまわり植物という区別はないようです。カボチャ、トウガン、スイカ、サツマイモなど栽培つる植物は畑地に栽培されますので光は十分にありますし、よじ登る対象もありませんので這いまわるのが普通見られる姿と思われます。カボチャ、トウガン、スイカはよじ登る対象があればよじ登ります。サツマイモがよじ登るかどうかを確認出来ませんでしたが、同じ仲間にはよじ登るものがたくさんあります。現在の作物は人間が選択してきましたので、その選択過程でよじ登る性質を失った可能性はあります。しかし、光が弱い条件で支柱があればよじ登るかもしれません。サツマイモ畑に支柱を立て、寒冷紗などでいろいろに遮光したらよじ登るかどうかを観察することは自由研究の面白い課題になるのではないかと思います。

最後に、進化の考え方について補足します。生物は長い時間の間にDNAの変化つまり遺伝子の変化が起きるのにともなって、形や働きを少しずつ変化する道をたどってきたもので、その変化が過去の環境に適応していれば生き残り、適応しなければ消滅したものです。現在生きている生物はみんなこの自然選択を受けて生き残っているので、地を這うつる植物も競争に勝ったはずです。たとえば、砂漠や草原などよじ登るものが無いところでは、地を這った方が適応度(子孫の数)は上がるでしょう。植物は自然選択しません。植物は自然選択される方です。重い果実を持つ上に登る植物と重い果実を持つ這う植物があったときに、どちらが子孫を多く残せるかで決まります。果実の重さ、蔓の強さ、登り方、這い方などいろいろな要因がありますので、重い果実を持つ這う植物の方が、重い果実を持つ登る植物よりも適応度が高いとはいちがいに言えません。重い果実をつけるからよじ登らないということはありません。

参考書としては、進化学の基本的な考え方を理解されるのが良いと思いますので、
長谷川-真理子「進化とはなんだろうか」岩波ジュニア新書-323-
あたりがおすすめだと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2008-11-11
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