一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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リンゴの色の件

質問者:   一般   身土不二
登録番号1942   登録日:2009-03-15
 昨日の日経PLUS1に、リンゴは最低気温が20度を下回る日が数日続かないと赤くならないとありましたが、何故なのでしょうか?
身土不二 さま

リンゴ果実の着色のご質問について、(独)農業・食品産業技術総合研究機構・果樹研究所でリンゴを含め果実ゲノムについて詳しく研究されておられる古藤田 信博 先生にお尋ねいたしましたところ、次の様な詳細な解説をいただきました。
  

リンゴの果実は「ふじ」を例にとると、5月に受粉してから約6ヶ月で成熟します。受粉して1ヶ月くらいの果実(幼果)の果皮は緑色ですが、9月の中旬頃にうっすらと赤みを帯びるようになり、10月に入るとかなりの部分が色づきます。そして10月下旬になると果皮全体が赤くなり、収穫期の指標にもなります。リンゴ果皮の赤い色の主成分はアントシアニンで、紫外線の照射や低温によって発現が誘導されます。特にアントシアニン色素の発現には温度による影響が大きく、夏の高温期が過ぎて秋に気温が下がると(15〜20℃が適温です)着色が始まります。高温(30℃以上)や極度の低温(10℃以下)の場合は着色が阻害されます。そのため、近年の地球温暖化の影響でリンゴが赤くならなくなってしまうことが懸念されています。

アントシアニンは、フェニルアラニンを出発基質としてカルコン、ナリンゲニンという物質などを経て生合成されます。赤色の果皮をもつリンゴの品種では、アントシアニン色素の増加に先立ち、アントシアニンの生合成に関わる遺伝子の発現が上昇することが分かっています。また、Myb(‘ミブ’と読みます)という転写因子の発現が上昇することによってアントシアニン色素の生合成に関与する遺伝子が発現することが分かっています。このMyb遺伝子は、紫外線照射や低温によって誘導され、アントシアニン生合成遺伝子の発現を上昇させることが示唆されており、リンゴの着色にも、Myb遺伝子の発現が強く関わっていると考えられています。

なぜ赤くなるのか?というリンゴの着色の生物学的意味はよく分かりませんが[ご存じのように果皮が黄色いリンゴ(アントシアニンを合成しないリンゴ)もあります]、低温以外に紫外線によってアントシアニンの合成が誘導されること、アントシアニンが紫外線を吸収できることなどから、果皮のアントシアニンは紫外線を吸収するフィルターとなり、果肉の代謝が紫外線によって障害を受けないようにしているとも考えられます。将来、どのような条件でMyb遺伝子が発現するかをさらに詳しく調べることによって、リンゴの着色のメカニズムとその生物機能の理解をさらに深めることができるようになると思います。

古藤田 信博((独立行政法人)農業・食品産業技術総合研究機構・果樹研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2009-03-19
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