一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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サルビアの花の色の季節変化について

質問者:   一般   カメリア
登録番号1970   登録日:2009-05-10
Salvia microphylla ‘Hot Lips’という花は白+赤、白、赤の3種類の花が混在して咲きますが、夏になると赤い花ばかりになり、秋になって気温が下がってくるとまた白+赤が出現するようです。そのメカニズムを教えて頂ければ幸いです。
カメリア さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
花の色が、時間が経ったり、季節が変わったりして変化することはよく観察されるのですが、「どうしてか」ということはなかなか難しい問題です。さらに、植物種によっても花色が変化する仕組みも違いますので個々の園芸品種について的確にお答えできない面もあります。永年、アサガオの花色の変化を研究されている基礎生物学研究所の星野 敦先生に伺いました。なお、花の色のでき方、変化などについてはこれまでたくさんのご質問を頂いています。登録番号1684に整理されていますので、これもご参考になさってください。


星野先生の解説
観察したことはありませんが、面白い花ですね。ご質問のメカニズムは分かっていませんので、想像できる範囲でお答えします。まず、サルビアの花はアントシアニンによる着色です。アントシアニンはオレンジ色から青色までの花色として、幅広い植物でつくられます。花以外の器官にも含まれ、赤ワインの色としても知られています。花などに含まれるアントシアニンの量は、気温や光などの環境によって変わり、気温との関係では、低温になると蓄積量が増えて色が濃くなり、反対に高温になると薄くなることが一般的です。低温になるとアントシアニンの合成に必要な遺伝子(仮に花色遺伝子と呼びます)が活性化することも調べられています。ただし、シンビジウムのように高温で発色が良くなる例外もあるようです。
次に赤と白の模様ですが、一つの花の中に花色遺伝子が働く細胞と働かない細胞が混ざると、働かない細胞だけが白くなって模様になります。例えばアサガオの丸い縁の細胞だけで花色遺伝子が働かなくなると、白い縁取りの「覆輪」と呼ばれる模様になります。本来は花全体で働く遺伝子が花の一部だけで働かなくなるのは、遺伝子の実体であるDNAの並びが変化する突然変異が原因です。突然変異により、一つの花でその働きがONとOFFの2つの状態になるスイッチのような性質を花色遺伝子が獲得したうえ、もとの気温の影響を受ける性質も残していると、気温によって模様が変化すると考えられます。このサルビアでは、低温になると花色遺伝子がOFFになる性質が強くなり、赤と白の模様や白色の花になるのでしょう。

まとめますと、もともと赤い花のサルビアの花色遺伝子が突然変異を起こして、低温でOFFになる性質を獲得し為に、夏には赤色の花、秋には赤と白の模様や白色の花を咲かせていると想像できます。
(シンビジウムの話は京都大学大学院農学研究科の細川宗孝先生より頂きました)

星野 敦(基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2012-08-25
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