一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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葉肥、実肥、根肥

質問者:   会社員   のんくら
登録番号2010   登録日:2009-07-04
以前も丁寧に教えて頂いたことがあり、ありがとうございました。


巷では、窒素は葉肥、リンは果肥、カリは根肥と言われます。

・窒素はアミノ酸やタンパクの原料であり、
・リンは能動化学反応のエネルギーやカルビン回路の基盤、
・カリは細胞膜での浸透圧調整機能

と理解している。
  
Q1.即ち植物体のどの器官にも必須・有用な3元素なのに
   葉肥、実肥、根肥として違った特徴を現すメカニズムを教えて下さい。

Q2.関連で、つるボケの生理を教えて下さい。

窒素過剰は、つるボケとなり芋が肥大しないと言われます。

・窒素が十分あって葉が沢山形成される際、窒素以外の養分も
 大量に使われ、芋形成にまわす資源が不足する為かと考えてみた。
(スクロース構成原素は炭素・酸素・水素しかないので、
 炭素が個体形成に回されて、スクロースが生成されない?
 ならば、二酸化炭素濃度が高くなれば解消する?)

・あるいは、過剰窒素で葉を形成しても、葉緑素とかRuBISCOが
 未完成で光合成をしないのかもしれない。

・逆に、芋の主成分ではないカリを施用してシンク側の環境を良くしても、
 窒素を減らして葉を少なくすれば、光合成回路も少なく、
 ソース側スクロース生産が少ないのだから、芋は肥大しないのではないか?

宜しくお願いします
のんくら さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
植物栄養学を専門に研究されている東北大学の山谷知行先生に伺い、次のような回答をいただきました。葉肥、実肥、根肥、蔓ぼけという用語は農業で使用される用語で、3大肥料成分の役割、栄養成長と生殖成長(あるいは栄養貯蔵)が均衡を保つ結果を大まかに表現したものです。


Q1.いずれも多量に必要な必須元素ですが、窒素が葉肥と言われるゆえんは栄養成長(次世代となる種子や子実をつける生殖成長との区別として使われる用語です)を促進して、生殖成長に入るのを抑制するからだと思われます。アミノ酸、タンパク質以外にも、核酸や葉緑素の成分でもあり、葉の成長を促進します。しかし、葉以外の根や実でも、勿論必須の栄養素で、タンパク質・核酸ほか多くの窒素を含む化合物の合成に使われます。リン酸は、花芽の分化や開花結実を促進すると言われていますが、活発な代謝を支えるATPや糖リン酸以外に、細胞膜の成分にも使われております。花芽分化や果実の発達には植物ホルモンの作用が不可欠ですが、リン酸肥料との直接的な作用の分子実体は、実はまだそれほどわかっておりません。実だけに必要な訳ではなく、他の器官でも、勿論必要とされています。カリウムは、浸透圧調整、細胞内のpH調整などに関係しています。根の発育に影響が大きいと言われておりますが、根以外の器官でも必要です。葉肥、実肥、根肥と必要とされる器官が分かれている訳ではなく、これらの栄養素は、植物体全体の分化・成育に多量に必要とされています。

Q2.Q1でも述べましたが、窒素過剰になりますと、特に栄養成長器官の発達が盛んになり、生殖成長を遅延させる状態になります。つまり、次世代の子実やこの場合ですと塊根の発達を抑制する作用がありますので、このような現象を引きおこすものと考えられます。また、過繁茂となって上位葉が下位葉を遮蔽し、個体の光合成全体としては必ずしも促進されません。従って、塊根の発達の不可欠な糖の相対的な不足が生じることが原因と思われます。

山谷 知行(東北大学大学院農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-07-16
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