一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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リグニンについて

質問者:   会社員   さとう
登録番号2234   登録日:2010-06-28
こんにちは私は前にもお世話になりました。今回もよろしくお願いします。疑問に思ったことがあるので回答お願いします。

針葉樹および広葉樹中の各組織におけるモノリグノールの種類および生成したリグニンの化学構造について教えてください。またこのような化学構造の異なるリグニンが生成するメカニズムについて教えてください。またβ-エーテル構造の多いシリンギルリグニンを爆砕処理した際にシリンガレジノールが多く生成してくるがそのメカニズムについて教えてください。
さとう さま

リグニンはフェニ-ル・プロパノイド構造(C6-C3、C6: フェノ―ル、C3: プロパノイド)を基本骨格とし、これが(ペルオキシダーゼ + H2O2)などによって、ラジカル重合した、複雑な高分子で、植物では主に細胞壁にセルロースと共に局在しています。その生物的な特長は、分子自体が化学的に安定であり、物理的にも非常に強固であり、また、微生物によっても分解されない、また、動物によっても消化されない、また、固い構造のため食べられにくい性質をもっています。植物の生育に欠かせない、根からの水の移動は導管の細いパイプを通りますが、導管はリグニンを主成分とするパイプであり、1年近くの間、詰まることも、漏れることもなく、(時には数十メートルの高さの樹木の)水の通路となり、その後も、樹木では木部として、時には数千年も、セルロースと共に植物を支えることができます。
リグニンを構成するフェニ-ルプロパノイド(モノリグノ―ル)として、Guaiacyl (G), Syringyl (S), p-Hydroxyphenyl (H)の3種があり、針葉樹(裸子植物)リグニンはGのみから構成され、それ以後に進化した広葉樹を含むすべての植物(被子植物)のリグニンはG, S, Hを構成要素とするリグニンをもっています。これらモノリグノ―ルの植物による違いは、これらを生合成する酵素の有無、量比によると考えられています。

リグニンの構造や生合成経路は最近の総説(Vanholme, R. et al.:Lignin Biosynthesis and Structure, Plant Physiol 153; 895-905 (2010))に最新のデーターが、、もう少し詳しくは、Boerjan, W. et al.: Lignin Biosynthesis, Annu. Rev. Plant Biol., 54; 519-546 (2003) に解説されています。

爆砕処理は木材チップなどを高圧、高温、水蒸気で処理し、これを急激に常圧に戻した時の機械的な断片化の過程で、リグニンを含め、木材成分を低分子化する方法ですが、この処理過程でリグニンはその構成成分(モノグリノ―ル)に加水分解されます。しかし、これらの収率や反応機構は、爆砕処理の時の温度、圧力、pHなどによって、さらに原料となる木材チップが針葉樹であるか、広葉樹かによって大きく異なるでしょう。ご質問の爆砕処理で得られたモノリグノ―ル(S)が得られたとのことですが、私たち生物の研究者にとっては、原料が広葉樹であるだろうこと以外は適切にお答えできません。爆砕処理の化学反応の専門家に御相談下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2010-07-11
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