一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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オーキシンの最後

質問者:   会社員   オハナ
登録番号2285   登録日:2010-08-19
植物の生長と「植物ホルモン」の関わりについて一体どうなっているのか調べています。
文献にて「オーキシン」は芽でつくられ、重力方向に移動しながら濃度によって各部位で成長促進として働いているとありました。しかし、根では低濃度では促進剤となり、高濃度では抑制剤となるとありました。
ここで質問があります。高濃度になった「オーキシン」はその後植物体から放出されるのでしょうか?分解されるのでしょうか?重力方向にしか動けないのであればオーキシンは根にたどり着いた後に最後はどうなるのだろうと不思議に思いました。
オハナさん

ようこそ「みんなのひろば」へ!大変するどい質問をありがとうございます。オーキシンの輸送は、今、大変ホットな研究分野です。私、柿本がお答えします。お答えするにあたり、オーキシンの専門家である、理化学研究所の笠原博幸先生に教えを頂いています。オハナさんの言われるようにオーキシンは主に芽の先で作られ、茎の維管束辺りの細胞を通って根の先端に向かって輸送されます。オーキシンは、オーキシンを持つ細胞から下方向に放出され、そのオーキシンが下にある細胞に取り込まれ、また細胞の下方向に排出され、という過程を繰り返して輸送されます。その点で、導管や篩管の流れのように管の中を流れるわけではないわけです。また、オーキシンは重力に従って輸送される訳ではなく、植物の芽の先から根の先という、植物の軸に沿って輸送されます。さて、根端に到達したオーキシンはどうなるのか、と申しますと、最も先端の根冠にまで行った後、表皮と表皮近くの細胞を、根端から離れる方向に輸送されます。つまり、茎と根の中心を根端に向かって流れ、根端に達すると、表層近くを通って根端から離れる方向にしばらく輸送されます。輸送されたオーキシンは、後に書くような仕組みで減少していきます。ちなみに根が重力方向に向いていなければ、根冠細胞は、オーキシンを下に近い側の側面に多く分配します。下側に近い側の表皮と表皮に近い細胞を通って上に輸送されるオーキシンが多くなります。根ではオーキシンは細胞の伸長を抑制しますので、重力方向に曲がるのです。
また、オーキシンは酸化による分解を受けたり、アミノ酸や糖に結合して不活性な形にされたりします。このようなオーキシンの分解や不活性化はオーキシンの濃度の高い根端で盛んに行われると考えられていますが、植物のどの場所でどれくらいの速度で分解や不活化が起きているのかは、わかっていません。
根にたどり着いたオーキシンは放出されるのでしょうか、というご質問ですが、大変重要なポイントを突いていますね。この点は盲点であり、充分には検討されていません。ただ、最近、インドール酪酸という種類のオーキシンは根から外に放出されるらしい事がわかってきました。主要なオーキシンであるインドール酢酸が放出されるかどうかは、まだはっきりしていないようです。インドール酪酸と、主要なオーキシンであるインドール酢酸は、酵素により相互に変換されますのでオーキシンは根から外に放出される可能性があると考えてよいでしょう。その放出が、植物のオーキシンの量に大きく影響するような速度なのかどうかは、未だ解明されておらず、今後明らかにされなければならない点だと思います。
JSPP広報委員長
柿本 辰男
回答日:2010-08-24
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