一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ミズナラ、ブナが含んでいる水分について

質問者:   一般   non
登録番号2919   登録日:2013-08-01
先日、ネイチャーガイドさんのご案内で森を歩きました。ガイドさん曰く、ブナは木の内部に大量の水を含んでいるため、伐採すると、その切り口から水が噴水のように噴出するというお話でした。木の内部にたまっているのは噴水のように吹き上がる水ではなく、もっとどろどろした樹液のようなものではないかと思っていたので、意外でした。ミズナラも同様ということで、ウィキペデアの「ナラ」の解説にも「伐採すると大量の水を噴出することから水楢(ミズナラ)」という、との記述があります(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%83%A9)どうも信じがたいのですが、はたしてこれは本当の話なのでしょうか?
みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を樹木を相手に研究をなさっておられる東大日光植物園の舘野正樹先生にお願いいたしましたところ、以下の様な回答をお寄せ下さいました。


舘野先生のご回答
 植物は二つの方法を利用してが水を引き上げています。どちらも、水が浸透圧の低い方から高い方へと自動的に動くという性質を利用したものです。もっと簡単に言うと、水は水に溶けている糖やイオンの濃度の低い方から高い方へと動いていく性質を利用しているということですね。
 一つめの方法ですが、これは葉の細胞の浸透圧が土の中の水の浸透圧よりも高いために、土の中から水が葉に向かって移動するというものです。多くの植物ではこの方法が主な吸水方法となっています。
 二つめは、根圧と呼ばれるものです。根圧という言葉は誤解を招きやすいので使いたくはないのですが、伝統的にこの呼び方が使われています。根圧による水の上昇には、茎の先端に葉がついていなくともおきるという特徴があります。根の細胞や茎の細胞が道管の中に糖やイオンを放出すると、道管内の浸透圧が上がります。この結果として土壌中の水が道管に移動するわけですね。ヘチマの茎を切ると水が出てくるのはこの根圧のおかげです。ヘチマの場合、道管の中に主に無機イオンが放出されているように思います。木の場合、道管の中に糖を放出する種もあります。メープルシロップをとるサトウカエデが有名です。道管を切断すると糖を含んだ水が出てくるので、これを集めて濃縮したものがメープルシロップです。また、日本のカエデでも同じようなことがおきます。春先にカエデも枝を切断するとかすかに甘みのある道管水が出てくるのです。これは冬の間に水を失った道管に水を再充填するために行われているようです。他にミズキが根圧を利用しているように思います。
 さてブナやミズナラですが、もし伐採した切り株から水があふれてくるならば上述の根圧の作用だと思います。実は、私は実験でブナを使っているのですが、茎の切断面から水が大量に出てくるのを見たことはありません。そのため、確実はことは言えないのが残念です。

舘野 正樹(東大日光植物園)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2013-08-09
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