一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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無施肥栽培での土壌中の養分循環

質問者:   会社員   えいち
登録番号3157   登録日:2014-10-04
植物の三大養分としてN,P,Kが主に利用されています。その養分を人為的に施肥する農法が現代の慣行農法として周知されています。ですが、無施肥で栽培し慣行農法並みの収量を確保できる圃場では上記のN,P,Kを含まれる養分がが何らかの形で土壌中で循環(還元、酸化)もしくは(分解、結合)されているということですね?窒素に関しての質問ですが家畜堆肥などの動物性タンパク質の含有量が多くアンモニア態窒素に容易に変換される資材の投入と炭素率の高い木質系の資材の投入による土壌中のアンモニア態窒素への変換では栽培上(植物の生育上)の差異は生じてくるのか?
各圃場における環境によって環境整備の方法は異なるとは思いますが・・
また、無施肥栽培についてはなぜそこで栽培された作物の内部品質(栄養価、硝酸態窒素含有率)等が優れている結果報告がでているのか?
現在の食生活で取り入れている野菜はもともと自然界にある雑草ということですね?
その原種は今もなお、その自然環境で育っているのでしょうか?
もしその自然環境で現在もヒトの手を加えずに育っているのであれば、
異なる環境で人為的に環境整備をすることが栽培ということでしょうか?
そしてそれが施肥や防除ということでしょうか?
つまり、現代の慣行農法以外の方法で環境整備をおこない植物の栽培を現慣行農法レベルにする技術は無いのでしょうか?
もし、土壌中の養分循環を施肥に頼らない方法があるとしたら、それは原種が自生している環境が土壌中の養分循環を効率よく行なっているということなのでしょうか?
えいち さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
化成肥料や農薬を十分に与え収量、品質に重点をおく慣行栽培には色々な問題点が指摘されるようになるとともに環境意識、安全意識が高まって有機農法、無施肥農法あるいは自然農法などに関心が高まっていることは事実です。しかし、それらの意味する内容(言葉の解釈、実践法を含め)や結果は実践される方々によってかなり異なっています。そのため、これら農法の効果を科学的に説明したり解釈したりすることは困難なことです。
ご質問は植物栄養学がご専門の京都大学 間藤 徹先生に回答をお願いしましたが、前提となる事柄を付記させていただきます。
ご質問にある「無施肥農法」とは、「有機質、無機質の肥料を人為的にまったく補給しない農法」と解釈します。植物は栄養素(肥料)がなければ生育できません。栄養素は無機イオンだけで十分で有機物質を必要としません。植物が必要とする栄養素は多量要素(N, P, K, Ca, Mg, S)と微量要素(Fe, Mn, Cu, Zn, Mo, B, Cl)とに分けられていますがそれらは生育に絶対必要なものです。「無施肥栽培」とはいっても、植物が生育する土壌にはこれらの肥料分が必ず存在します。土壌となる風化した岩石は必要元素のほとんどを含んでいますのでそれらがイオン化されることや、近隣にある、あるいは栽培した植物の葉、茎、根の残渣、動物の糞尿、死骸が土壌微生物の働きで分解されて必要元素イオンの一部を遊離します。しかし、このような自然補給は作物の必要量を賄うほどではありませんので長期的には不足してくる結果となります。農法では作物として収量、品質を持続的に確保できるかどうかが重要な問題です。

【間藤先生のお答え】
無施肥で栽培して慣行農法なみの収量を上げている圃場というのが本当にあるのか、調べたことがないのでよくわかりません。質問者がおっしゃるように、もし無施肥で充分に収量が取れるなら、その土壌にはNPKが充分に含まれていたと考えられます。
家畜堆肥とは家畜糞堆肥ですね? 堆肥の(窒素)肥効は、堆肥に含まれる窒素成分が分解されることによって現れます。堆肥の分解の速度はC/N比(炭素窒素比)によって左右されます。木質系堆肥のC/N比は、家畜糞堆肥よりも高く、このため、アンモニアの放出量も少なく、放出速度も遅くなります。家畜糞堆肥のなかでも分解速度は鶏糞>豚糞>牛糞の順に遅くなります。鶏糞堆肥はC//N比が低い即効性の堆肥です。したがって木質系堆肥や牛糞堆肥は土作りに向き、鶏糞堆肥や油粕は、堆肥の中では、速効性です無施肥栽培された作物の品質が(慣行栽培された作物よりも)優れているかどうか、検証されたデータは見たことがありません。しかし、ひとつの可能性としては、無施肥で作物の生育がおそくなると、例えば糖度やビタミンCの含有率がより高くなることがあるかもしれません。しかし、同じ面積の畑での無施肥栽培と慣行栽培の作物の収量も考慮に入れる必要があるでしょう。ふつう無施肥栽培の方が収量は低くなります。
作物はすべて、もともとは野生の植物でしたが、人間が選抜を繰り返して現在の作物品種に仕上げました。ですから作物の原産地には今でも原種に近い種が存在していると思います。しかし作物の原種は、小柄だったり実が小さかったり堅かったり、現在の作物の姿とはだいぶ違っている場合が多いものです。つまり作物の原種はたしかに自然環境の中で生育しますが、その品質(果菜なら実の大きさ、やわらかさなど;葉菜、結球野菜なら葉の大きさ、柔らかさ、えぐみのなさなどなど)とか収量(そこそこの栽培期間で充分大きくなる)までも考慮すると、作物の原種植物は肥料なしでも栽培できるとはいえ、現代の作物のような食用に適した性質を持つものではありません。また、野生の作物は肥料を与えても生育があまり影響されない場合もあります。
例えば、野生稲に窒素肥料を与えるとかなり低い濃度で倒伏してしまって収量はとても低いものとなります。今のイネ品種は窒素肥料の増加に応じて収量が増えるように人間が葉や根を改良し続けて生み出してきたものなので、狭い水田でもたくさんのコメを生産することが出来るものとなっています。

間藤 徹(京都大学農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2014-10-08
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