一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

C4植物の葉肉細胞と維管束鞘細胞について

質問者:   高校生   auxin
登録番号3422   登録日:2016-01-27
光合成について勉強していた時に考えていたことです。
葉緑体は細胞内共生説によるともともとシアノバクテリアだったとされていますが、自分が使っている資料集で、C4植物の葉肉細胞の葉緑体はC4ジカルボン酸回路を持っていて、維管束鞘細胞の葉緑体はカルビン・ベンソン回路を持っていると書いてありました。このことからするとC4植物の葉緑体は高温・乾燥の地を生き抜くために独自の進化をしたのでは、と思ったのですが、事実はどのようなものなんですか?
回答よろしくお願いします。
auxin さん

このコーナーをご利用下さりありがとうございます。
C4植物の光合成は、(A)二酸化炭素が固定される反応段階と、(B)固定された炭素が還元されて同化産物となる反応段階に分けられます。

(A)の段階では、(1)葉肉細胞において、二酸化炭素(重炭酸イオン)が炭素数3個の受容体化合物と反応して炭素数4個の化合物(C4ジカルボン酸)となることで有機物として固定され、(2)次いで、この固定産物が維管束鞘細胞へと組織間で輸送され、(3)維管束鞘細胞において、二酸化炭素とC3化合物に分解されます。なお、(3)の段階で生ずるC3化合物は、維管束鞘細胞から葉肉細胞へと逆送されて二酸化炭素受容体として再生されることになります。このため、葉肉細胞と維管束鞘細胞の間ではC4化合物とC3化合物を交換して二酸化炭素を固定する代謝回路が形成されることになります。(B)の段階では、(3)の反応で生ずる二酸化炭素が葉緑体で機能するカルビン・ベンソン回路に取り込まれ、還元されて光合成産物に変換されます(この段階は、C3植物の光合成と同じです)。
狭義には、二酸化炭素の固定と濃縮を生理機能とする(1)~(3)の反応が「C4ジカルボン酸回路(経路)」と呼ばれます。しかし、「C4ジカルボン酸回路(経路)」が「カルビン・ベンソン回路」と連結することで定常的なC4光合成の進行が可能になるので、両者をまとめて「C4ジカルボン酸回路(経路)」と書かれることもあります。

ところで、上述のように複雑なC4光合成の炭素代謝は、植物が高温・乾燥の地を生き抜くために獲得したものであると考えられています。しかし、この機能の獲得は進化的には比較的新しいイベントで、細胞内小器官としての葉緑体の起源に関わるような根源的なことではないと思われます。光合成で中心となる過程は光エネルギーの化学エネルギーへの変換反応です。光エネルギー変換系の基本的な作り(系を構成するタンパク質(遺伝子)や反応の仕組み)は、シアノバクテリアと陸上の植物(C4植物の葉肉細胞と維管束鞘細胞を含む)の間で共通性が非常に高く、これが葉緑体のシアノバクテリア共生起源説を支える大きな根拠の一つとなっています。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2016-01-28
植物 Q&A 検索
Facebook注目度ランキング
チェックリスト
前に見たQ&A
入会案内