一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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朝顔の花弁の切り込みについて

質問者:   会社員   nishi
登録番号3567   登録日:2016-08-07
去年、朝顔の夫婦咲について質問をさせていただきました。
その夫婦咲になっていた曜白朝顔の種子(藤紫色)やピンク色、紫色の種子を去年採取し、今年播種し1つの色につき6株ずつ育てました。

順調に生育をして花をつけるようになり藤紫色のものは今年は正常な咲き方をしたのですがたまに花弁に切れ込みがはいる株が1株ありました。

紫色にもたまに切れ込みがはいる株が1株あるのですが、ひどいのがピンク色でほとんどといっていいほど切れ込みが入ります。
また、切れ込みだけでなく雌蕊や雄蕊が弁化したりするのもでてきています。

花弁の切れ込みについてインターネット等で調べてみると生理現象となっているのですが葉の切れ込みをみても紫色とピンク色は切れ込みが深く藤紫は切れ込みがあまりなく葉をひとつとっても掛け合わせた日本の朝顔の性質がでているのでは思うのですが、花弁の切れ込みは遺伝子は関係なく生理現象とというのがいまいち理解できないのですがなぜ花弁に切れ込みがはいるのでしょうか。
nishi さま

ご質問、どうもありがとうございます。アサガオを研究材料とされている九州大学の仁田坂英二先生にご回答いただきました。

【仁田坂先生のご回答】
曜白朝顔は、静岡大学の米田先生が、日本の覆輪のアサガオ(Ipomoea nil)と、近縁種のマルバアサガオ(I. purpurea)をアサガオのアフリカ系統を介在させることで作出した種間雑種です。その後、大きく咲く大輪朝顔等、日本のアサガオと掛け戻しをした品種等いろいろと作られておりますが、ゲノム(遺伝子群)にある程度マルバアサガオとアフリカ系統の部分を残しています。これまで日本のアサガオは均一な遺伝的背景に起こった突然変異のみで品種が作られておりましたが、このような種間雑種による試みはアサガオでは初めてのことです。その結果、種の隔壁がなくなってしまい、それぞれの種できちんと制御されてきた遺伝子発現の撹乱が起こっているようでいろいろと面白い表現型が表れています。ただし、品種によって日本のアサガオのゲノムの背景が異なるため、以下の特徴は全ての品種に当てはまるわけではありません。
 例えば、日本のアサガオは日本の日長に適当しており、夏至を過ぎて日長が短くならないと花をつけませんが、曜白朝顔では夏至前後の早くから花を付けるものもあります。また花のしおれる性質もおかしくなっており、午後になっても花弁がしおれないものがあります。葉型についても仰るように元の交配親が持っていなかった深く切れ込む葉型が表れている品種もあります。これは近縁種のアメリカアサガオ I.hederacea の葉型にちなんで、ヘデラセア葉と呼ばれていますが、アメリカアサガオは品種の成立には関与していません。

花弁の切れ込みが入る理由ですが、1つには日本のアサガオの花弁を増やす洲浜という変異を持つ大輪朝顔と交配した品種があり、この洲浜変異ではしばしば花弁に切れ込みが入りますのでこの性質が表れているのかもしれません。洲浜を持っているかどうかは、花弁(曜)が野生型の5曜ではなく、6曜以上あることからわかります。また、大輪朝顔には一部の雄しべが弁化する性質がある品種があり、この性質を受け継いでいる可能性があります。この弁化の理由は、1つには八重咲き変異によるものですが、大輪朝顔の遺伝子を調べたわけではないので正確にはわかっていません。
 大輪朝顔の関与が原因でない場合は、上に述べたように、種間雑種で遺伝子発現の攪乱が起こっており、その影響で花弁が切れる、しべが弁化するのではないかということです。ただし、私は花弁の切れる曜白朝顔をこれまで見たことがないのであくまでも推測です。
 また花の切れ込む程度ですが、これは植物体の生育(生理)条件によって変化します。例えば石畳というアサガオの変異体がありますが、これは1本の株から咲いた花でも、深く切れ込むものと、ほとんど野生型(丸咲き)に近いものからいろいろな花を付けます。

 仁田坂 英二(九州大学大学院理学研究院)
JSPP広報委員長
出村 拓
回答日:2017-02-15
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