一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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気温とトマトの皮の厚さ

質問者:   会社員   キム
登録番号3587   登録日:2016-08-30
種苗会社のホームページに「秋にトマトを栽培すると、夜間の気温が下がるため皮が厚くなりやすい」と書かれてありました。実際に栽培したところ、食べてみると確かに皮が厚くなっています。どうしてこのような現象が起きるのですか。教えてください。
キム さん:

みんなの広場のご利用ありがとうございます。
トマトの皮は子房の外果皮にあたり数層の細胞からできています。低温、水ストレスを受けると外果皮が「固く」なることは経験的に知られています。夜温が12度を下がると果皮が固くなるとの調査があります。しかし、外果皮そのものの「厚さ、固さ、柔らか」には外果皮細胞の細胞壁の構成、構造が影響していると推定されるもののその状態を物理的手段、顕微鏡観察などで調べた研究を見つけることはできませんでしたので一般的知見に基づいて推定してみます。

果実の成長は、受精後の細胞分裂期(子房壁など細胞の数は増えるが、細胞が小さく果実の成長は遅い時期)、肥大期(細胞分裂はほぼ終わり、細胞が肥大成長する。そのため果実が急速に大きくなる時期)、成熟期(果実の大きさは変らないけれども、組織内に劇的な生化学的変化がおき着色、有機酸、糖、香気成分などの合成蓄積が起こる時期。この後期には組織の軟化が起こる-熟するRipening過程―)の段階を経るとしています。肥大期終わりのトマトは、まだ緑色ですがほぼ最終の大きさです(緑熟段階)。秋トマトは7月下旬から8月(地域による)に植え付けし10月には収穫するので、緑熟段階が10月になり生化学的変化が大きい成熟期は低温にさらされる機会が増加します。低温は生化学的反応の早さばかりでなく、反応の種類、組み合わせなどにも影響を及ぼし、特に細胞壁の構成、構造に関与する生化学反応は劇的に質的変化をすることが報告されています。細胞壁の構成、構造が変化すれば細胞の形にも影響を及ぼしますから、外果皮細胞壁にも変化がおき「固い」「厚い」と感ずることになるのではないかと推定できます。低温になると成長が遅く、組織の物理状態が変る例は年輪形成に見られます(もっとも、年輪形成では細胞分裂、細胞成長も加わっている点では多少違いますが)。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2017-03-03
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