一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ミズアオイの雄しべ

質問者:   一般   malo
登録番号3608   登録日:2016-09-28
ミズアオイの雄しべについて教えてください。6本の雄しべがありますが、そのうち1本が大きくて青紫色です。ほかの黄色い雄しべと役割の違いがあると思われるのですが、わかりません。ツユクサのように役割分担されているのでしょうか。
malo さん

みんなの広場のご利用ありがとうございます。
確かにツユクサもミズアオイも1つの花の雄しべの形状が違っていますが、状況はかなり違うようです。ミズアオイでは雄しべ6本のうちの1本は葯が大きく青紫色に着色していますが他の5本は小さく黄色い葯になっています。さらに、この大型雄しべと柱頭の位置関係に二型があり、花を正面から見たとき柱頭が左側、大型雄しべが右側にある花をL型、その逆になるものをR型としています。京都大学の研究者による大・小の雄しべの機能を人工授粉、除雄、L型、R型の交配実験などで調べた研究では、1)大・小雄しべに生ずる花粉の稔性に差異はない、2)人工授粉では、異花受精、自家受精のいずれにおいても大・小雄しべの機能に有意差はない、3)L型、R型の交配では、どちらを雄・雌としても(LxL、RxR,LxR,RxLのどれでも)種子生産は同じである。したがって大・小雄しべは受粉、受精の機能において全く差はないことになります。

ミズアオイは虫媒花ですが蜜腺がないので送粉昆虫への報酬は花粉粒となります。黄色い葯は送粉昆虫を惹きつけるが青紫色の葯はあまり魅力的でないので昆虫は黄色い花粉を食べている間に青紫色葯の花粉が昆虫に多く付着し運ばれる可能性が高いと考えられます。もちろん小型雄しべの花粉も昆虫に付着しますが、あえて極端に言えば、小型雄しべは送粉昆虫を惹きつけ食料として(蜜腺の役割)、大型雄しべの花粉が主に他花への受粉に使われると言う役割分担があるのかもしれません。送粉昆虫としてニホンミツバチやクマバチなどが観察されていますが、両者が訪れる条件では他花(異花)受精の確率が高く、ミツバチだけが訪れる場合には低いことが観察されています。ニホンミツバチとクマバチの大きさを考慮すると大型昆虫の場合にはL型、R型に関係なく身体全体に花粉が付着するけれども小型昆虫ではL型とR型とでは付着する花粉が送粉昆虫の片側により多く付着し異花受粉の機会を高めることが予想されます。自家受粉を避ける効果がありそうです。しかし完全ではありませんね。

ミズアオイ属はオーストラリア、アフリカ、アジア大陸に分布していますが、面白いことにオーストラリア産の種には雄しべに大小の区別がなく6本全部が同じ黄色い葯で、アフリカ、アジア大陸産の種だけが大・小の雄しべをもつようです。コナギも同じですね。また、自動自家受粉が起こる割合は、オーストラリア産が12%くらい、アジア産は75%程度に対し、アフリカ産の種では0%と測定されています。同じ型の雄しべを持つオーストラリア産がより原始的と考えられているのでアフリカ大陸、アジア大陸において独自の進化をした結果との推定されますがこのような進化をもたらす環境圧は今後の研究課題のようです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2017-03-09
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