一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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赤色と青色の光を与えたときのクロロフィル合成の違いについて

質問者:   教員   さるすべり
登録番号3609   登録日:2016-10-01
質問させていただきます。 
現在、科学部の活動で異なる光条件下でオオタチヤナギの栄養生殖にどのような違いが出てくるのかを調べています。オオタチヤナギの枝を10cmに切り、水耕栽培をしています。上から赤色LEDをあてたものは茎があまり伸びずに、根がよく発達しました。また、茎や葉の緑色がとても濃くなりました。葉の大きさは小さく閉じたような形をしています。一方、青色LEDをあてたものは茎が長く伸び、根はあまり発達せず、茎や葉の色は黄緑色で薄かったです。葉は明所ほどではないですが広がりました。そこで質問ですが、なぜ、赤色光のほうが青色光よりもクロロフィルが多くなるのでしょうか。赤色光がクロロフィルの合成系に関係しているのでしょうか。文献にジベレリンがクロロフィル合成に抑制的に働いているとあったのですが、青色光の茎の成長と色素が薄いことに関係があるのでしょうか。ご教示のほど、どうぞよろしくお願いします。


さるすべり 様

ご質問をありがとうございます。
クロロフィル合成の制御系についてお詳しい東京大学の小林康一先生にご回答いただきました。

【小林康一先生の回答】
光合成を行う植物にとって、光は生育に最も重要な要素の1つであり、植物の発生や形態形成、成長速度などのさまざまな側面に影響を与えます。このような光に対する応答は光合成反応のほかに、光受容体という光を感知する装置を介して行われます。
例えば、フィトクロムと呼ばれる光受容体は、赤色光を感知すると茎の伸長を抑制しますので、「赤色LEDで茎があまり伸びなかった」というさるすべりさんの実験結果とよく一致します。また、フィトクロムはクロロフィルの合成を促進することも知られており、緑色が濃くなった結果もそれで説明できます。
 
それでは青色LEDの場合はどうかというと、青色光もやはり茎の伸長を抑制することや、クロロフィル合成を促進することが知られています。この場合は、フィトクロムに加え、クリプトクロムという青色光に特異的な光受容体も大きく貢献します。しかし、さるすべりさんの実験では、「青色LEDでは茎が長く伸び、茎や葉の色は黄緑色で薄かった」とのことですので、これまで知られている一般的な青色光の作用とはむしろ正反対の結果となっています。オオタチヤナギがこの点に関して非常に特殊である可能性は否定できませんが、それよりも、青色LEDの光量が少なかった、という可能性はないでしょうか。光の強さや光量(光の強さ×照射時間)によって光受容体の働き方やその効果は変わりますので、赤色LEDの光量が十分であったのに対し、青色光は、茎の伸長抑制やクロロフィルの合成を引き起こすには弱すぎたのかもしれません。青色LEDの条件下で根の発達が悪かったのも、光量が少なく光合成によるエネルギーの獲得が不十分であった可能性が考えられます。植物の光応答には、光の色(波長)に加え、その強さや量も大きく影響しますので、可能であれば、光の強さ(光量子束密度など)を測り、赤色LEDと青色LEDで同じくらいの値になるように調節して実験されるとよいと思います。

ちなみに、ジベレリンがクロロフィルの合成に対して抑制的に働くことについては、どの文献をご覧になられたか定かでないので正確なことは申し上げられませんが、おそらく暗所芽生えにおける観察結果かと思いますので、今回の明所での観察には直接は結びつかないように考えます。

なお、植物に対する光の効果と光受容体との関係については、登録番号0274, 3015, 3691などをご参照ください。

 小林 康一(東京大学大学院総合文化研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2017-03-21
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