一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ムベの若葉の水滴について

質問者:   教員   アケビコノハ
登録番号3610   登録日:2016-10-01
 私はアケビコノハという擬態する蛾を飼っています。それはムベを食性としています。今日、冬越しの幼虫がまた見つかったのでとりに行くと、ムベの若葉にだけ、その縁取りにきれいに雨の水滴が並んで付いています。若葉でないものはつるつるなのでしょうか、水滴も付いていません。また、若葉だけ、葉の表面にも同様水滴がきれいに付いており、つついてもそう簡単には崩れず、流れもしませんでした。あまりにきれいに縁取られていて、細工物のようでした。なぜ、このような水滴の付き方になるのでしょうか。教えていただけたらありがたいです。よろしくお願いします。
アケビコノハ様

 みんなのひろばへのご質問有り難うございました。頂いたご質問の回答を東京大学の寺島一郎先生にお願いしましたところ、以下の様な丁寧なご回答をお寄せ下さいました。写真も付いています。良く分かると思います。

【寺島先生からのご回答】
 葉につく露、これには2種類あります。

 一つは本当の露です。晴れた日の朝には、放射冷却によって葉の表面から熱が奪われ、空気よりも温度が下がります。空気が湿っていると、葉の温度が露点以下になって露がつきます。したがって、この場合には、露の成分は純粋に水です。もちろん、葉の表面にはいろいろな物質があり、微生物もいますので、こういうものが水に溶けたり、混じったりします。

 もう一つは根圧によるものです。根の細胞が呼吸エネルギーを使って、中心柱の道管(土壌から吸った水や、窒素・カリウムなどの栄養塩類を地上部に運ぶ働きをしています)にイオンなどの溶質を送り込みます。これで道管の内部の浸透圧があがり、土壌の水が植物の体内に入り、溶質とともに地上部までやってきます。この原動力となる浸透圧を根圧といいます。ヘチマ水は、この根圧によって出てくる道管の液(木部液)です。木部液が葉の「水孔」とよばれる穴から出てくる現象が「溢泌」です。つる植物(ホップと同じ仲間のカナムグラ)、オランダイチゴ、サトイモなどでは見られる現象です。溢泌も、蒸散の少ない時(たとえば、早朝で湿度が高く、葉の温度が低いときなど)によく観察できます。

 ムベの葉についた水滴。ネットに写真がありました。
http://photozou.jp/photo/show/225306/201804600
http://photozou.jp/photo/show/225306/201802889
 これらの写真から判断すると、ムベの葉縁の水滴は、明らかに根圧による溢泌です。一方、葉の表面の水は露だろうと思います。

 水孔について、もう少し説明しましょう。葉脈の先端(脈端)は、死んだ細胞がつながってできる道管ではなく、単一の死細胞である仮道管の場合が多いですが、木部液は、そこから細胞の隙間をとおって、表皮に達します。表皮に開いた気孔に似た穴が水孔です。水孔は気孔とちがって開閉はしません。この水孔は葉縁に規則正しく並んでいます。溢泌する液体は、もともとは植物の木部液ですから、様々なイオン類が含まれています。ただし、水孔周辺の細胞が、溢泌液の中から必要な栄養を再吸収してようですから、木部液そのものの組成とは異なります。

 葉縁の溢泌液も表面の水滴も若い葉では見られたが、成熟葉では見られないのでしょうか?
 若い葉と成熟葉ではどちらが乾いているでしょうか? 普通は若い葉の方がみずみずしいだろうと思います。葉の細胞がやや乾いていると、根圧で木部液が送られてきても細胞が水を吸収してしまいます。その場合には水孔から出る液の量は少なくなります。これが若い葉と成熟葉の溢泌量の違いだと思います。表面の水滴は放射冷却によってつくことはすでに述べたとおりです。若い葉の方が成熟葉の上にあって、遮るものがなかったのでしょうか?それならば、若い葉の方が葉の温度が低く、結露しやすかったのかもしれませんね。自信はありませんが。

 寺島 一郎(東京大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2017-03-11
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