一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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クロロフィルとヘモグロビンの起源について

質問者:   公務員   ミジンコ
登録番号3637   登録日:2016-11-17
 高校の生物教員をしています。タンパク質の構造を教える際に、図説を見せながら「ヘモグロビンの構造とクロロフィルの構造はほとんど同じ」ということを授業で言っているのですが、実際のところ、なぜ植物のクロロフィルと動物のヘモグロビンの分子構造がとてもよく似ているのかとても不思議です。これらが同じ起源と考えるのが自然だと思うのですが、一体どのあたりで同じ起源で、どのあたりで分かれたのでしょうか?それとも遺伝子が水平移動したのでしょうか?
 ほかの色素やレグヘモグロビン等も同じ起源なのでしょうか?これらの起源についてお教え下さい。
高校の授業で説明できるといいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
 
ミジンコ 様

ご質問をありがとうございます。以下のように整理してみました。

-化学的な構成-
「ヘモグロビン(血色素)」は、「ヘム」と呼ばれる色素部分(補欠分子族)と「グロビン」と呼ばれるタンパク質部分で構成される色素タンパク質複合体に与えられた名称です(典型的にはヘテロ四量体構成(α2β2))。これに対し、「クロロフィル(葉緑素)」は、生体内では色素タンパク質複合体として存在して機能する複合体の色素部分に与えられた名称です。

この二つの色素タンパク質複合体のタンパク質の部分はお互いに全く異なっています(遺伝的に無関係)が、へモグロビンの色素部分であるヘムとクロロフィルの構造は類似しております。両者の構造骨格は、「ピロール」と呼ばれる窒素を含む単位構造が四個縮合してできる環状の有機化合物で、「ポルフィリン」と総称されています。
ポルフィリンは、Fe、Mgを始めとする多くの元素と安定な錯体を形成する傾向にあり、金属がFeである場合がヘム(Feポルフィリン)、Mgである場合がクロロフィル(Mgポルフィリン)と呼ばれます。なお、化学化石の中にはバナジウムやニッケルを中心金属とするポルフィリン類が多量に含まれており、また、自然界ではマグネシウムの代わりに亜鉛を結合した(バクテリオ)クロロフィルをもつ光合成細菌が見つかることがあるようです。

-金属ポルフィリンの分布と機能-
金属ポルフィリンは生物界ではややありふれた化合物で、ご指摘の場合を含め、光合成の過程で光エネルギーの捕集や初期電子移動の反応を担うクロロフィルやバクテリオクロロフィル(共にMgポルフィリンの類)、呼吸や光合成の電子伝達系で電子担体として機能するシトクロム(Feポルフィリン)、カタラーゼやペルオキシダーゼなどの酸化還元酵素の触媒中心(Feポルフィリン)、呼吸の過程で酸素運搬の機能を担うヘモグロビンやミオグロビン(Feポルフィリン)、ヘモグロビン同様に酸素を可逆的に結合させる根瘤中のレグヘモグロビン(Feポルフィリン)、ビタミンとして機能するビタミンb12(Coポルフィリン)、一酸化炭素や一酸化窒素などのガス性シグナル分子を結合するFeポルフィリン、ヘムの部分そのもののタンパク質への結合・解離で細胞内センサーとして機能するポルフィリン等々の場合があり、この類の分子は生物界に広く分布し、非常に広範囲の生理機能に関係していると言えます。

含窒素炭素化合物であるピロールや、その縮合体であるポルフィリンは、化学的には比較的簡単に生成するようで、これらの分子は生命の起源や進化の問題との関わりにおいても多くの想像を生みます。

-クロロフィルとヘモグロビンの関連-
クロロフィルが吸収する光エネルギーを利用する光合成反応の副産物として発生する酸素が、進化の後の段階で呼吸における電子受容体として活用されることとなり、時が経過して酸素呼吸の効率を高めるための補助過程としての酸素運搬をクロロフィルに類似する分子であるヘモグロビンが担うに至ったと言うストーリーには因縁の深さを感じさせるものがあります。他方、生体内でのポルフィリン化合物の合成には葉緑体やミトコンドリアなどの細胞内小器官が関与し、一般にはヘムとクロロフィルの合成は途中の段階までは共通の経路を辿るとの事実があります。それにも関わらず、クロロフィルとヘモグロビンの関連は、細胞内の比較的ありふれた分子である金属ポルフィリンの類が、それぞれの分子的特性によって、場合によっては光捕集や電荷分離に、場合によっては酸素の運搬に使われる結果に至ったものとして理解することが出来ます。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2017-02-17
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