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原始真核細胞にシアノバクテリアが共生したものが葉緑体ですか?

質問者:   教員   ミカン
登録番号3676   登録日:2017-01-28
共生説の説明において、教科書には「原始的な真核細胞の内部に呼吸を行う細菌が共生してミトコンドリアの起源となり、その後、さらに光合成をおこなうシアノバクテリアが共生して葉緑体の起源となった。」とあります。

しかし、注釈として「核膜の形成時期と、呼吸を行う細菌の共生時期順は明らかでない。」とあります。

つまり、原始真核細胞に好気性細菌が共生してミトコンドリアの起源になったのか、大型の原始嫌気性細菌に好気性細菌が共生してミトコンドリアの起源になったのち、膜進化によって核が誕生したのか、はたまた、核の誕生と好気性細菌の共生が同時期だったのかは不明だということだと思います。

では、原始シアノバクテリアが共生した細胞は、真核細胞だったと断言できるのでしょうか。

好気性細菌が共生していたことは確かだと思いますが、核の有無で真核細胞か原核細胞かを判断する場合、シアノバクテリアが共生し、葉緑体の起源が誕生した時期に核はすでに誕生していたと考えて宜しいのでしょうか。

それとも、ミトコンドリアと一緒で、核の誕生と葉緑体の誕生の前後関係も不明なのでしょうか。

色々調べましたが、明確に記載されているものがなく困っています。

何卒宜しくお願い致します。
ミカン 様

ご質問をありがとうございます。
難問で、回答が少し遅くなり申しわけありません。
ご質問には京都府立大学の小保方潤一先生から回答文がいただけましたので、ご参考になさって下さい。

【小保方先生からの回答】
現在、様々な状況証拠から、既にミトコンドリアと核を持っていた真核細胞にシアノバクテリアが共生し、葉緑体になったと考えられています。そのように考えるに至った理由と、最近急速に明らかになりつつある真核細胞の成立過程について、簡単にご説明させて頂きます。

現在知られている全ての真核細胞は核とミトコンドリアを持っています。したがって、核とミトコンドリアを既に持っていた細胞/生物が、その後に進化して様々な系統に分岐して行ったと考えられます。この真核生物が分岐する前の共通祖先を、LECA(The last eukaryotic common ancestor)と呼びます。ちなみに、ミトコンドリアを欠く原生生物も知られていますが、それらには全て、かつてミトコンドリアをもっていた痕跡が残っており、二次的にミトコンドリアを失った真核生物であることが分かっています。シアノバクテリア共生の宿主となって光合成真核生物になったのは、上記のように分岐・多様化したLECA以降の真核生物ですので、ご質問に沿って言えば「宿主は既に核を持っていた」と考えられています。

では、核とミトコンドリアをもつLECAは、どのように成立したのでしょうか? ミトコンドリアの祖先になったのは好気性のα-プロテオバクテリアであることが解かっていましたが、共生の宿主となった細胞と、その細胞が核膜などをはじめとする真核的な性質を獲得した時期については、これまで諸説があり、論争の対象になっていました。しかし、ゲノムDNAの解読技術とその情報解析が長足の進歩を遂げており、その結果、この数年間で、LECAの謎に関連する重要な知見が次々と明らかになってきました。

一つは、古細菌の中に、これまで真核細胞だけがもつと考えられていた性質を有する新たなグループが見つかって来たことです。もう少し正確に言うと、細胞内膜系の構築や小胞輸送、他の細胞を取り込むのに必要なサイトーシス、細胞骨格、などの遺伝子をもった古細菌の系統群が見つかって来たのです。実は、これらの古細菌を顕微鏡で見たり、培養した人は誰もいませんが、海底の熱水噴出口の周辺などから採集してきた堆積物中のDNA分子集団をまとめて解読し、その配列を基に、コンピューター上で個々の古細菌のゲノムを再構成するという、所謂メタゲノム(環境ゲノム)の手法で、これらの古細菌の存在が間接的に示されました。この知見は、真核細胞と従来の古細菌の間を繋ぐ、複雑な細胞内構造を持った古細菌群が、実際に存在するということを示しており、この系統群の古細菌の中から、ミトコンドリア共生の宿主が現れたと考えられています。つまり、真核細胞は古細菌から分岐した、ということになります。

第二の知見は、データベースに登録されている膨大な遺伝子情報の解析からもたらされました。それによると、真核細胞が共通にもっている遺伝子群は、古細菌由来の複製・転写・飜訳などに関わる遺伝子群、なんらかのバクテリア由来で内膜系などに関わる遺伝子群、α-プロテオバクテリア由来でミトコンドリアや呼吸に関わる遺伝子群、などに大まかに分けられ、この順序でLECAにもたらされたことが示唆されます。
つまり、α-プロテオバクテリアの共生によってミトコンドリアが出来る前に、真核細胞の主だった構造は既に出来ていたのではないか、ということです。

これらの新しい知見を基にすると、「既に核や小胞体などの内膜系がある程度発達していた古細菌の仲間に、好気性細菌が取り込まれ、ミトコンドリアをもつ真核細胞が誕生し、次に、この真核細胞から分岐した中の一系統に、シアノバクテリアが取り込まれ、光合成真核細胞が生じた。」という可能性が高いと考えられます。ゲノム情報をいくら解析しても、実際に核膜を目で見ることは出来ません。しかし、現在、様々な生物のゲノムDNAの解読と情報解析が急ピッチで進められており、真核細胞の成立過程についても、急速にその輪郭や時系列が明らかになりつつあります。

以下に、関連する最近の論文を示しますのでご参考になさって下さい。

参考文献
(1) Spang et. al.(2015) Complex archaea that bridge the gap between prokaryotes and eukaryotes. Nature 521:173.
(2) Pittis and Gabaldon (2016) Late acquisition of mitochondria by a host with chimeric prokaryotic ancestor. Nature 531:101.
(3) Zaremba-Niedzwiedzka et al. (2017) Asgard archaea illuminate the origin of eukaryotic cellular complexity. Nature 541:353.
(4) Lopez-Garcia et al. (2017) Symbiosis in eukaryotic evolution. J.Theoretical Biol. (in press)

 小保方 潤一(京都府立大学生命環境科学研究科・植物ゲノム情報学研究室)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2017-03-09
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