一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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クルクルの理由

質問者:   一般   みのり
登録番号3685   登録日:2017-02-09
シクラメンの茎について教えてください。
命名の理由が、サイクルから来ていることは、図鑑など、文字の上では知っていました。先日、たまたま通りかかった公園で、不思議な渦巻きを見て、葉は、シクラメンに似てるけど…、これはどうして?と、渦巻き状の茎を、初めて見たのです。
花が終わった後、巻いていくのかと思われますが、理由はなんでしょうか。巻くことによるメリットは何でしょうか。筒状になって、暖かい場所で、果実が保護されるのでしょうか。
全部が全部、巻くことはないようにもみえますが、教えていただけると、ありがたいです。
また、こういう仕組みを持つ他のものがあったら、教えてください。
みのり様
 ご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を東京大学の塚谷先生にお願いいたしましたところ、以下のような回答が帰って来ました。塚谷先生の回答から分かると思いますが、なかなか難しい質問のようです。

【塚谷先生からのご回答】
 ご質問ありがとうございます。
 ご指摘の通り、シクラメンは花柄が結実後にらせん状に巻くことからその名があるわけですが、主要園芸品種の親となったCyclamen persicumはあまりそういう性質を示しません。最近、シクラメン属の他の野生種や、そういう他の種類と交配したガーデンシクラメンと呼ばれる小型の園芸品種が日本でも普及してきていて、それらを見るときれいに果柄がらせんに巻くのを見ることができますね。
 さてなぜこんなことをするのか、ということですが、私も知らなかったので人に聞きながら調べてみました。
 結論としては、あまりよく分かっていないようです。
 花を昆虫に目立たせるべく、せっかく長く伸ばして高みに掲げた柄を、巻き込んで株元にしまってしまうわけですから、結実してできた種子は当然、親株のすぐ近くに散ることになります。このままでは大変不利ですね。まず、か弱い発芽直後から、自分よりずっと大きな親と競走しなくてはならなくなります。それに、親株が何か病気を持っていたらすぐ感染してしまいます。親株を食べている虫がいたら、柔らかい子株から先にやられてしまうでしょう。なので、一般に植物は種子を親株から遠くに離そうとするのが普通です。
 シクラメンの場合、どうもそれはアリによって回避しているようです。つまりアリに種子を運ばせて、遠くへの種子散布を実現しているようです。
 となると、なぜいったん株元に果実を引き込むのでしょう。筒状になっても暖かさはほとんど変わらないと思います。シクラメンは人と違って体温をもたないので、その懐に居てもちっとも暖かくないからです。空中にあるよりは地面近くの方が傷まないのでしょうか。シクラメンを野生状態で食害する生き物としては、ナメクジが多いらしいので、親株近くにまとまって果実が並ぶのは、その意味では危険な気もします。シクラメン属の一種の野生種について調べた論文によると、アリが種子を運ぶため、アリに見つけてもらいやすいように、親の株元に固めて果実を並べるのではないかということですが、さてどうでしょう。シクラメン属の中でも、園芸品種の親になったCyclamen persicumがあまり巻かないことを考えると、ある程度はメリットがあるものの、そうでなくては困るというほどの強いメリットではないのかもしれません。
 面白い質問をありがとうございました。

 塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2017-02-17
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