一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物の根の周りに水がたまるとしおれてしまう詳しい過程

質問者:   一般   ぴよ
登録番号3686   登録日:2017-02-09
現在読んでいる本に、植物の根の周りに水がたまると、植物がしおれてしまうということが書いてありました。その過程として、その本では「根の周りに水がたまると、低酸素状態になり、サイトゾルのカルシウムイオンが上昇し、pHが低下する」と書かれていました。
このことに関して、質問があります。

「根の周りに水がたまると、低酸素状態になること」は容易に理解できるのですが、その続きの「低酸素状態になること」によって「サイトゾルのカルシウムイオンが上昇し、pHが低下し」、結果的に植物がしおれてしまう、という一連の流れがよく分かりません。

私の考えでは、何らかの理由でサイトゾルのカルシウムイオンが増えることがあれば、細胞内の濃度を下げるために外から水が流入して、むしろ細胞が水で膨らむ(植物はしゃきっとする)ような気がします。
他の本やインターネットで調べてみたのですが、植物の根の周りに水がたまるとしおれてしまう詳しい過程は分からず、このコーナーで質問させていただきました。
よろしくお願いいたします。
ぴよ さん:

みんなの広場のご利用ありがとうございます。
回答は名古屋大学の中園幹生先生におねがいし、次のような回答を頂きました。
植物細胞においてもカルシウムの増減はいろいろな環境刺激によって起こり、刺激応答に関する遺伝子の発現を調節していることが分っています。細胞質カルシウムの増加とpH変化との因果関係は今のところはっきり分っていないようです。低酸素状態では通常の酸素呼吸系が抑制されますのでエネルギー状態を保つために解糖系が増進、各種有機酸発酵が起こるのでpH低下につながるものです。

【中園先生の回答】
土壌の粒子と粒子の間の空隙には、水相と気相の両方が存在していて、植物の根は水相中の水を吸収するとともに、気相中の酸素を呼吸に利用しています。しかし、大雨などによって土壌が水浸しになると、土壌粒子間の気相が水相に置き換わるために、急激に土壌中の酸素濃度が低下して、植物の根の周りは低酸素状態になります。低酸素状態では、植物細胞内のサイトゾル(細胞質基質)のpHが低下し、サイトゾルのカルシウムイオン(Ca2+)濃度が上昇することが知られています。

低酸素状態になるとサイトゾルのpHが低下する理由として、主に以下の3点が考えられています。
① 細胞内のヌクレオシド三リン酸(NTP)の加水分解
② 嫌気代謝系の一つである乳酸発酵による乳酸の生成
③ 細胞膜上のプロトン輸送ATPアーゼ(H+-ATPase)の阻害による細胞外へのプロトン(H+)排出抑制

このような理由でサイトゾルのpHが低下すると、細胞膜に局在するアクアポリン(水チャネル)の活性の阻害がおき、細胞内への水の取り込みが抑制されることによって、根における水の吸収能が低下します。その結果、植物の地上部(葉や茎など)に輸送される水が不足するために、地上部の葉などがしおれてしまいます。

一方、低酸素状態になるとサイトゾルのカルシウムイオン濃度が上昇する理由として、以下の2点が考えられています。

① 細胞膜外のカルシウムイオンの細胞内(サイトゾル)への流入
② ミトコンドリア内のカルシウムイオンのサイトゾルへの放出

増加したカルシウムイオンは遺伝子発現を調節するシグナル物質として働くことが知られています。しかし、カルシウムイオンが上記の低酸素状態でのサイトゾルのpH調節に関わっているかどうかは分かっていないのではないかと思います。

 中園 幹生(名古屋大学大学院生命農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2017-02-21
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