一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の種類と必要な栄養素

質問者:   会社員   みつ
登録番号3747   登録日:2017-05-10
地質リモートセンシングを専門としております。
ナミビアの砂漠地帯を対象に衛星画像解析及び現地調査を行った際、地層の種類の違いごとに植物の種類が変わる特徴が認められました。
具体的には、珪岩(珪素に富む)、炭酸塩岩(カルシウム、マグネシウムに富む)等が分布する地域では葉・茎に棘のある植物(2~4mの低灌木)が疎らに生えており、粗面玄武岩(鉄・カルシウム・マグネシウムに富む、リン・カリウムにやや富む)が分布する地域では、棘のない植物(4~5mの低木)がより密に繁茂しております。
岩石の組成の違いが土壌中の各栄養素含有量に影響を与えてこのような現象が起きているのではないかと考えているのですが、
植物に棘ができる、あるいは植物の種類が異なる条件として、栄養素の観点での違いはあるのでしょうか。
みつ さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。

ご質問はナミビア砂漠地帯の岩石組成と棘をもつ(もたない)植物の植物相との関係をお尋ねと思います。栽培作物のミネラル要求性についてはたいへん詳しく調べられていますが、自然環境に生育する野生植物については残念ながら殆ど調べられていないのが現状です。結果論で、石灰岩地帯を好む植物群とか、弱酸性土壌を好む植物群と言った表現はしばしば使用されます。そこでご質問はもう少し原点に返って考えて
みます。

植物は、温度、降雨量、雨期/乾期の有無、風力、日照、日長と言った様々な気象環境の変化、土壌の化学的性状、物理的性状などの多くの自然環境に応答しながら個体として、また種としての生存、繁栄をはかっています。つまり多くの環境変化に耐える柔軟性をもっています。しかし、柔軟性にも限度があり、ある限界を超えた場合には生きながらえることはできません。一方、植物は世代を重ねる毎に一定の頻度で遺伝的変異を起こし、形態的にも機能的にも親とは少しばかり違った形質をもつものが現れます。変異は、放射線や火山噴火で発生する化学物質によっても起こります。変異に方向性はなくランダムです。これらの変異を起こした個体は親が耐え得なかった環境にも耐え得るものであれば生き残ります。その結果、長い年月の間に親とは違った種ができることになり「進化した」と表現します。新たな環境変化に耐えうるか、耐えないかによって変異種が生き残るかどうかが決まるため、生物は自然環境に選択されて進化すると言えます。

砂漠にもいろいろの型があり、ナミビア砂漠とサハラ砂漠とでは自然環境がかなり違います。過酷な環境に進出した古代植物の変異種の中からそれぞれの砂漠環境に選択されて生き残っているのが現在の砂漠の植生です。「棘があるかないか」ではなく、砂漠環境でのある地層帯で生き残った種に「棘のないものが多かった」あるいは「棘のあるものが多かった」と見るしかないのです。棘のある植物は私たちの周辺、日本の多くの地域にたくさんありますので、棘のあるなしと土壌のミネラル組成とは関係はないとみられます。岩石の組成は植物に供給するミネラルの組成に影響するでしょうが、一般に植物にとっての必須ミネラルのどれが不足しても植物は正常な生育はできません。いくつかのミネラルの量比は生育に影響することがありますが砂漠のよう
な環境では水分の供給量(土壌中の水分の分布)、窒素、リン酸の供給量が大きな影響をもたらすのではないでしょうか。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2017-05-17
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