一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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紅葉のメリット

質問者:   高校生   山下夏実
登録番号3770   登録日:2017-05-26
高1の山下夏実です。

先日生物の授業で葉はなぜ緑色に見えるのか習いました。
では秋に紅葉するのはなぜかと疑問に思い、後で調べてみたところ夏に必要以上に生成されたグルコースが秋には葉に過剰に存在し、アントシアニン(青、青緑、緑の光をよく吸収し、赤色光を反射する)が生成されやすい環境ができるためだと書いてありました。

そこで質問なのですが、紅葉することのメリットは何ですか。また、秋には葉は落ちてしまうとわかっているのになぜ過剰にグルコースを生成するのでしょう?


ご返答お待ちしております。
山下夏実 さん

このコーナーをご利用くださりありがとうございます。
アントシアニンの蓄積による葉の紅葉化は、幼葉の時期に一時的に見られる場合、葉の生長の全期間にわたって見られる場合、落葉に至る過程において見られる場合など、いろいろなケースがあります。ご質問は最後のケースに関するものですね。この場合、光合成産物を原料にしたアントシアニン合成速度の高まりは、葉緑体におけるクロロフィルの蓄積量の減少や葉柄の基部における離層の形成などの過程とほぼ同時に進行するようで、落葉を間近にした葉における生理活性の昂進を示すものとして理解されています。この現象のもつ生物学的な意義(メリット)については諸説があって、現在のところ定説が確立するには至っていないようです(この問題は、本コーナーの登録番号3395で取り扱われておりますのでご参照ください)。

生物学的な意味を考えるに際しては、先ずは、物質としてのアントシアニンの蓄積そのものに意味があると考えるか、結果としてアントシアニンの蓄積をもたらす代謝過程の進行に意味があると考えるかの二つに立場が分かれます。前の立場の場合、(1)アントシアニンが太陽光(UVと可視光)を遮るフィルターとして機能し、この時期の葉にとって重要な生理的な営みが光を受けることによって生ずる傷害から保護されているとするもの、(2)他の生物との関連において、アントシアニンによる着色が植物体が識別されることに役立ち、そのことが最終的に生存に有利に働いているとするもの、(3)色素としての呈色には直接的な関係はなく、アントシアニンの化学的な特性に由来する「抗酸化能」が、やがて散って行く葉ではあるが水分も多く生理的活性を保っている状態ですので、保護的な効用を与えているとするものなど、いろいろな視点があります。また、(4)色素を蓄積した紅葉は色のついたまま植物体の根元に落とされることになるので、落葉後の効果にメリットを求める考えもあります。以上のすべては、「植物の葉が、“将来の見通しもなく”光合成の産物を蓄積し、何の役にも立たない物質を合成している」ことはないだろうとの考え(先入観と信念)に基づいております。

以上、求められたことへの全面的な回答にはなっておりませんが、考察を進める上でお役に立てばありがたいと思っております。本コーナーにはアントシアニンに関する数多くのQ&Aが掲載されておりますのでご参考にしてください。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2017-06-01
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