一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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捻れる花

質問者:   大学生   猫の目
登録番号3788   登録日:2017-06-16
学校でチューブリンの変異により花が捻れることがあると知りました。キョウチクトウ科の植物の花の多くが捻れていますが、これもチューブリンの変異によるものなのでしょうか?また、捻れることに利点はあるのでしょうか?

猫の目 さま

ご質問ありがとうございます。チューブリンの変異に関する研究をご専門とされている奈良先端科学技術大学院大学の橋本隆先生に回答していただきました。

【橋本先生の回答】
モデル植物シロイヌナズナを用いた研究により、生体ポリマーである微小管の機能が損なわれると植物体の細長い組織がねじれることが知られています。チューブリンは微小管ポリマーの構成因子ですので、チューブリンの変異により根、茎、花弁などの伸長する組織が一定方向(右または左巻きのどちらか)にねじれます。右巻きか左巻きのどちらにねじれるのかは、チューブリン変異の種類によって決まります。花弁が右巻きにねじれると、花の上方向から見て反時計回りに花弁が配置されているように見えますし、左巻きにねじれると、時計回りに配置されます。イネにおいても、チューブリンの変異が方向性を持ったねじれを引き起こすことが報告されています。チューブリン以外の微小管関連遺伝子の変異によってもねじれは引き起こされますが、チューブリン変異は微小管異常の主要なものです。一方で、シロイヌナズナでは方向性が決まっていない(右巻きと左巻きがほぼランダムに出現する)変異も知られており、これらの方向性を持たない変異は微小管(チューブリン)とは関係ありません。したがって、ねじれの方向性が決まっているかどうかが、その原因が微小管にあるのかどうかの判断材料となります。

植物の花びらには時計回り、または反時計回りにねじれているものがありますが、その方向性は植物種によって決まっている場合と決まっていない場合があります。キョウチクトウ科ニチニチソウの花弁を観察すると、ある花弁の左端は左隣の花びらの上側に来るように重なっており、5枚の花弁は反時計回りに配置されているように見えます。この場合、ねじれの方向性が決まっていることから、その原因が微小管にある可能性が推察されます。しかしながら、実際に微小管関連遺伝子がニチニチソウ花弁のねじれの原因であるかどうかは、実験によって証明する必要があります。

つる性植物のねじれ方向は決まっており、例えば、アサガオのつるは右巻きです。その原因に微小管が関連することは推察されますが、まだ証明されてはいません。つる性植物の場合、一定方向にねじれることにより支柱にからみつくことを容易にしていると考えられます。木本植物などに絡みつくことにより、機械的強度が不十分なつる性植物でも空に向かって生育することができます。植物が密植する環境において、効率的に光合成が行えるように高く生育することは、生存競争に打ち勝つための重要な戦略の一つと考えられます。花弁がねじれる利点は知られていませんが、生存に不利となることもないでしょう。

 橋本 隆(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科)
JSPP広報委員長
出村 拓
回答日:2017-06-20
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