一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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接ぎ木における異種認識

質問者:   会社員   のりまろ
登録番号3810   登録日:2017-07-06
微生物の研究をしてます。高等菌類は、種レベルで異種認識し、キメラを作るのは困難のように思いますが、植物の場合、例えば、ウリ科内のキュウリと夕顔等、接ぎ木できます。完結に質問致しますと、キュウリと、夕顔、かぼちゃは繋がるが、キュウリとトマトは、繋がらないのはなぜですか?植物は接ぎ木のような処理の場合、科レベルでしか異物認識できないのでしょうか?(物理的に構造が違うだけ?)また、異物認識のメカニズムは明らかにされているのでしょうか?属が違うのに繋がるのが不思議で。
のりまろ さま

ご質問ありがとうございます。植物の接ぎ木のメカニズムについての研究をご専門とされている名古屋大学の野田口理孝先生に回答していただきました。

【野田口先生のご回答】
 植物の接ぎ木の場合も、動物の免疫反応に認められるような親和性の問題があります。接ぎ木は、植物の傷を修復する機構を利用した技術です。自分自身の体が繋がるための機構を利用して二種類の植物種を接いでいますので、仲間同士であればあるほど接ぎ木は成立し、逆に遠縁であるほど接ぎ木は成立しにくくなります。一般的には、同種間であれば多くの場合に接ぎ木は成立し、同属間、同科間と系統関係が離れるほどに接木は成立しにくくなり、異科の植物を接木することは極めて難しくなります。
 接ぎ木の機構については正に現在も研究が進められているところで、自他を認識する機構が接ぎ木の成否の決定要因として介在するかは今の時点ではっきりと分かりません。しかし、一般的に理解されていることも多くあり、そこから一定の考察は可能です。形態学的な解析によると、接ぎ木をする際の傷口からは新しい細胞が作られます。新しく生まれた細胞は、特定の機能を持った組織に分化し、接ぎ木をする前と同じように水や栄養の輸送経路を再構成します。接ぎ木した両植物の間で組織が繋がることで、一つの個体のように成長を続けることができるというわけです。この未分化な細胞から特定の機能を持った組織への分化を果たすことが可能か可能でないかが、接ぎ木が成否を左右します。組織の分化過程については近年の研究によって遺伝子のレベルで理解が進んでおり、分子同士の相互作用が鍵を握ります。接ぎ木の場合ですと、接ぎ木した二種類の植物に由来する組織分化に働く分子が、正常に相互作用できなければなりません。この分子レベルの相互作用は、系統関係が遠縁になるほど正常に働くなりますので、それが接ぎ木の成否を決めている可能性があります。
 植物間だけでなく、植物と微生物間の相互作用も自然に起こりますので、異物を認識する機構は植物も働かせています。それらの機構と接ぎ木の関係を調べることは大変に興味深く、接ぎ木技術の将来的な発展のためにもぜひ取り組んでみたいテーマです。

 野田口 理孝(名古屋大学大学院生命農学研究科)
JSPP広報委員長
出村 拓
回答日:2017-07-29
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