一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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夜は気孔は開いている?

質問者:   会社員   生物は天が作ったAI
登録番号3820   登録日:2017-07-15
植物の研究は光合成を中心に太陽光が存在する日中の生体メカニズムについての題材は多いのですが、夕方から夜中にかけての研究、即ち人間と同じ様な代謝活動についての検討は少ないように思います。質問が初歩的ですいません。植物は光合成と同時に呼吸も行っているとお聴きしますが、酸素を取り込むため夜も気孔を開くのでしょうか?
生物は天が作ったAI様

質問コーナーへようこそ。
O2は植物が体内で有機物を分解して、ミトコンドリアが細胞呼吸により生命活動に必要なATP(高エネルギーリン酸化合物)を合成するために必要です。ATPは各種の合成反応(タンパク質、核酸、多糖類など)に必要で、また生体膜を通しての輸送(アミノ酸、糖類、必要栄養素等の吸収や老廃物の排出など)にも必要で、このことは動物や多くの細菌などでも共通です。呼吸は有機物の消費を伴うため、呼吸をする生物は必要なATPを賄うのに必要な速度でしか呼吸をしません。生体内では呼吸速度は厳密に調節されており、ヒトを例にとれば、激しい運動をして細胞内のATP濃度が低下すると、それを補うために呼吸が速くなります。
気孔は、光合成に必要なCO2は取り入れるが、H2Oの損失はできるだけ抑えるための工夫です。陸上植物では、気体(CO2, O2, H2O)の交換は主に気孔を通しておこなわれます。しかし、気孔を開かなくても呼吸に必要なO2を得ることができるものもたくさんあります。そのような場合は、O2は細胞表層および細胞膜を拡散して細胞内に入り、ミトコンドリアに至ります。大気に接する植物の葉や茎はクチクラでおおわれており、クチクラはロウや脂肪酸が主体となって気体拡散のバリアーとなりH2Oの蒸散による損失を防いでいます(「みんなの広場」Q&A 登録番号2231参照)が、O2は相当程度通します。「みんなの広場」Q&A 登録番号3365には、気孔がなくても表皮細胞からO2を吸収できる例が紹介されています(大気はO2を体積百分率で約20%含む)。一般的に、気孔を夜に開く必要性はないといえます。動物でも肺や鰓を持たずに皮膚呼吸により生きているものがあり、皮膚を通してO2が拡散します。
なお、ベンケイソウや多肉植物の一部のものは、気孔は昼は閉じており、気温が下がって相対湿度が高くなる夜に開き、取り入れたCO2をリンゴ酸などの有機酸としてため込みます。昼は気孔を閉じ、リンゴ酸を分解して生じるCO2を通常の光合成により糖質などの合成に使います。これらは、(CAM:Crassulacean Acid Metabolismベンケイソウ属の酸代謝)型植物と呼ばれます。乾燥地帯で昼間気孔を開くことはH2Oの損失につながりますので、水の損失を抑えつつ成長するための戦略です。CAM型植物の気孔が夜開くのは、CO2を取り入れるためであり、O2を取り入れるためではありません。

JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2017-07-28
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