一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物体における還元糖の分解

質問者:   会社員   macco
登録番号3833   登録日:2017-07-31
 サトウキビに興味があり、詳しく知りたいと思いました。
 
 サトウキビなど糖を蓄える植物は刈り取り後、子孫を残す為、急速に蔗糖が酵素により分解し還元糖になりますが、その還元糖であるブドウ糖や果糖も分解されると思うのですが、還元糖の分解は同じく酵素によるものか、微生物によるものか、お教えください。また、ブドウ糖と果糖の分解スピードも違いがあればお教え下さい。宜しくお願いします。
maccoさま

みんなのひろばへのご質問有り難うございました。頂いたご質問の回答を北海道大学の山口淳二先生にお願いいたしましたところ、以下の様な詳しい解説をなさって下さいました。難しい問題のようですが、しっかり勉強して下さい。

【山口先生のご回答】
一般的に植物は,光合成によって炭酸固定した糖をデンプンの形で貯蔵しています。それを必要に応じて分解して糖に戻し,自身の生存や成長のためだけでなく,ストレス応答や環境適応のためのエネルギー源や様々な代謝物質の源として利用しています。サトウキビなどは,デンプンではなくショ糖(蔗糖またはスクロース)の形で貯蔵する植物ですが,基本は変わりません。植物体内ではショ糖は,酵素により分解されます。もしサトウキビが枯れてしまった場合には,土の中の微生物によってショ糖は分解され,微生物のエネルギー源となります。ただし質問は,おそらく植物体内での分解のことを聞いていると思いますので,それについて詳しくお答えします。

例えばサトウキビの場合,ショ糖は細胞内の液胞に貯蔵されますが,液胞内または細胞質の酵素(インベルターゼとショ糖合成酵素)によって分解されます。例えば,インベルターゼによってショ糖が分解される場合,ブドウ糖(グルコース)と果糖(フルクトース)が生成します。この両方の糖は,いくつかの代謝経路で他の物質に変換していきますが,エネルギー源としての主要な分解経路は解糖系となります。この場合,ブドウ糖はヘキソキナーゼ,果糖はフルクトキナーゼという酵素によってリン酸化され,そこから解糖系に入っていきます。このリン酸化は,一連の酵素学的分解反応の最初となるので,いわゆる律速段階-一連の反応の中で最も難しい酵素反応となり,そのためブドウ糖と果糖の分解スピードもおそらくこの最初の反応が規定していると思われます。実際,2つのキナーゼは,細胞のエネルギー状態や解糖系の後の方の代謝産物によって活性が変化することが判っていて,この反応が律速段階であることが裏付けられています。ただし,ここで私が「思われます」と書いたのは,試験管内での酵素学的反応では,上記ことは証明されているのですが,実際の植物体内でどうなのかということについては,「?」という状態だからです。「(植物体内で)ブドウ糖と果糖の分解スピードに違いがあるのか」との質問に対しては,私も正直明確に答えられない状態です。

そこで,果実の糖代謝に詳しい他の専門家の方にお聞きしました。その方の意見では,「サトウキビに蓄積する糖(スクロース)は次世代の成長のためのエネルギー源で、一方、果実の糖蓄積は動物などに食べられるためであり、目的が違うので一緒に議論できないと思いますが、果実の多くはスクロースまたはフルクトースを蓄積し、グルコースを主要な蓄積糖とするものはあまりありません(ブドウ糖の名の由来のブドウですら、グルコースとフルクトースの蓄積量は同量程度)。裏付けは全くありませんが、グルコースは最も生物にとって最も使いやすい糖なので優先的に使われるので、グルコースは果実の蓄積糖になりにくい・・という話を聞いたことがあります。」,との話でした。

「(植物体内で)ブドウ糖と果糖の分解スピードに違いがあるのか」との質問に対しては,おそらく分解に関与する酵素が違うので,スピードにも違いがあるであろう,と結論付けられること。ただし,その違いは,植物種や部位(組織),そして環境条件によって変わる可能性がある,ということだと思います。明確な答えになっていなくて申し訳ありませんが,これで答えにさせてください。

 山口 淳二(北海道大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2017-08-12
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