一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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根から吸収されたアミノ酸は炭水化物に代謝されるか

質問者:   一般   里のフクロウ
登録番号3858   登録日:2017-08-16
有機栽培技術書で説かれていた肥料として吸収されたアミノ酸の役割についての疑問です。アミノ酸は作物体内で炭水化物と窒素化合物とで合成されるものである。したがってアミノ酸には炭水化物の要素が含まれている。このアミノ酸を根から吸収した場合、作物はアミノ酸の炭水化物部分を使ってセルロースを作ることをする、と説明しています。私はこの説明を、作物は根から吸収したアミノ酸を炭水化物に代謝して光合成で生成した炭水化物と同様の働きをさせると理解しました。しかしながら植物のこのような機能についての説明は他で見つけることができませんでした。作物は吸収したアミノ酸を炭水化物に分解して利用することをするのでしょうか。
里のフクロウ様

 みんなのひろばへのご質問有り難うございました。戴いたご質問の回答を国立遺伝学研究所の佐藤 豊先生にお願いし以下の様な回答を戴きましたので、お届けします。

【佐藤先生からのご回答】

「根から吸収されたアミノ酸は炭水化物に代謝されるか」との質問をいただき、ありがとうございました。
 
 植物が利用できる主要なアミノ酸は20種類あります。一般的にはアミノ酸そのものは主に細胞の生存に必須であるタンパク質の合成に使われます。20種類のアミノ酸はいずれも糖を分解してエネルギー取り出す過程の中間産物や光合成の中間産物を利用して合成されています。アミノ酸には窒素も含まれており、植物肥料の3要素に窒素が含まれている理由の一つは、窒素がアミノ酸の合成に必要になるからです。一方で、逆にアミノ酸を窒素源として利用することも可能です。この場合、肥料として与えるアミノ酸を分解して生じる窒素を利用して、他のアミノ酸合成や窒素を含む他の分子を合成します。
 
 このように、肥料に含まれるアミノ酸が吸収された場合、アミノ酸は窒素源としての役割を果たすことはできます。一方、アミノ酸が代謝されたのち、窒素以外の部分がどのように利用されているかについてですが、アミノ酸を構成する炭素を含む部分を有機酸として再利用する代謝経路は存在しています。グリシンやセリンというアミノ酸は代謝されて光合成の中間産物を生じます。これらは、光合成により作られる炭水化物と区別なく使われます。このことから、最初の質問を考えると、根から吸収された一部のアミノ酸は代謝されて炭水化物の合成に使われることは、ありえると思います。次に、質問内容のところに記述されている「作物は根から吸収できるアミノ酸を代謝して光合成で合成するのと同じように炭水化物が合成できる」についてですが、極端な場合を考えてみました。もしこれが正しいなら、アミノ酸を与えれば光がなくて光合成をしなくても作物が必要な炭水化物を合成して作物が生育できるということになりますが、これはさすがに無理なので、肥料として与えるアミノ酸が完全に光合成の代わりをできるわけではありません。肥料として投与するアミノ酸は炭水化物の合成に機能するのは微々たる量であり、主には窒素源として利用されていると理解する方が良いかと思われます。
 
 なお、植物の根からアミノ酸が吸収されてどのように代謝されるかについては、過去のみんなの広場に質問があり、良い回答が用意されております(登録番号1155 登録日:2007-01-15)。こちらもご覧ください。

 佐藤 豊(国立遺伝学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2017-08-30
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