植物Q&A

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クエン酸の発根作用機作

質問者:   公務員   疲労馬
登録番号3862   登録日:2017-08-19
はじめまして。
野菜の定植直後や、日照不足で根張りが悪いときなど
、発根させたいときにクエン酸入りの液肥資材を灌水施用しますが、確かに能書き通り、無施用より根量が増えます。
現象としては確かにそうですが、なぜクエン酸を根に与えると発根するのでしょうか。メカニズムが分かっておりましたら教えて頂けませんか。宜しくお願いします。
疲労馬 さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。クエン酸に限らず有機酸と植物の生長との関係のご質問と理解してお答えします。

植物は、栄養素として鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)などいくつかの金属イオンを必要としています。(栄養素については登録番号3846をご参照下さい)。また、土壌中にあるアルミニウム(Al)などは毒性があり成長を妨げます。土壌の種類によって状況は異なりますが、これらの金属イオンは土壌水中に遊離で存在するもの、土壌鉱物や腐植酸などに特殊な形で結合し植物に吸収されにくい状態にあるものがあります。一方、植物は根からいろいろな物質を分泌することが知られており、その中にはアミノ酸や有機酸などが含まれています。Alの毒性に耐性を示す植物(エンドウ、コムギの系統)を調べた結果、耐性植物はAlイオンを感知してリンゴ酸を分泌し、リンゴ酸はAlイオンとキレート結合物(錯体)を生成してAlを土壌から溶脱しやすくして(いわばAlイオンの解毒)Alイオンの毒性を回避していることが明らかにされています。Alイオンは植物遺伝子に作用してリンゴ酸の輸送体合成を増加促進してリンゴ酸の分泌が増加するというものです。同じようにオオムギ、モロコシ、インゲンなどの耐性系統はクエン酸を分泌します。クエン酸もリンゴ酸と同じようにAlと錯体を形成します。その他シュウ酸を分泌するものも知られています。

有機酸が金属イオンの吸収を助けている場合もあります。リン酸イオンやFeイオンの多くは土壌鉱物や土壌中の腐植酸などにキレート結合したり、不溶性になったりして多くは吸収されにくい形になっており、リン酸欠乏、Fe欠乏状態になります。根から分泌されたクエン酸、リンゴ酸などはこれらのリン酸イオンやFeイオンと錯体を形成し、遊離可溶化して吸収されやすくしています。また、イネ科の植物はFe欠乏におちいるとムギネ酸という有機酸を分泌し、Feを可溶化して吸収し鉄欠乏を回避します。

 根から分泌された有機酸やアミノ酸は根の周辺(根圏)土壌中の微生物菌相に大きな影響を与えています。根圏の微生物は土壌中の有機物を分解して不溶化されている栄養素イオンを遊離化したり、微生物自体の代謝産物が栄養素となったりして植物に有利な環境を作っています。分泌された有機酸やアミノ酸はこれら根圏微生物菌相の成立を促進します。人の腸内細菌群が人の栄養、健康にとって重要な働きをしていることに似ています。

このように、植物の根が分泌した有機酸は植物の栄養、つまり成長、生存にとって重要な働きをしています。そこで一歩進めて、外から有機酸を与えても類似の効果が期待できるとの考えで実際にクエン酸の施用試験がいくつかの作物で実施され、期待通り栄養素不足土壌での生育が保たれるとの結果も得られています。また、重金属汚染土壌の浄化(ファイトレメディエーション)にも有効との報告も見られます。報告されている例は成功例が多いので、効果なしとする結果がどの程度あるのか分りませんが、クエン酸(に限りませんがキレート作用をもつ有機酸)は、土壌中の栄養素を利用しやすくすること、有害な金属イオンの溶脱を助けることで植物の生育に有利な環境を与えていることになります。発根作用は肉眼でも観察しやすい生育促進の一例と考えられます。

但し、有機酸の有利な効果は、根から分泌されて根にごく近接した周辺での話で、外から土壌全体に施用したときには土壌からの栄養素の溶脱現象を無視できないと思われます。土壌の組成、構造、対象作物の種類、施用濃度などによって効果は大きく異なってくることは予想されますので、それぞれの場合場合で最善の方法を見いだすことが必要となるでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2017-08-29