一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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トマトの花粉と一緒に観察された結晶は何?

質問者:   会社員   シルラボのノッシー
登録番号3902   登録日:2017-09-11
花粉,ハーブの葉,芋のでんぷんなどを電子顕微鏡で
観察して,学生さん向けに公開しています。
ミニトマトの花粉を観察した時に,直径3~5ミクロン
の球形の結晶が見つかりました。
https://slab.hitachi-chem-ts.co.jp/blog/?p=353
構成元素はカルシウム。その他に炭素と酸素が含まれて
いそうです。構成元素と形状から「シュウ酸カルシウム
の集晶」と推定しましたが,調べても類似の物は
見つかりませんでした。肥料は土壌から与えて,
花に肥料が直接かかることはありません。
花の中に集晶が析出する現象は知られていること
なのでしょうか?
シルラボのノッシー様

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を植物の形態に詳しい元千葉大学教授の福田泰二先生にお願いしましたところ以下の様なご回答を下さいました。なかなか難しいようです。繰り返しご観察願います。

【福田先生からのご回答】
結論を手短に言えば「わかりません」なのですが、私もシュウ酸カルシウムの集晶であろうという推定に賛成します。
シュウ酸カルシウム説に賛成する根拠としては、構成元素のほかに、植物に含まれるカルシウム塩の結晶の中で圧倒的に多いのがシュウ酸カルシウムであること、も加えてよいかと思いますが、決定的な根拠にはなり得ません。また、ナス科のジャガイモ、ハシリドコロ、ヒヨス等々で、集晶とは限りませんがシュウ酸カルシウムの結晶が知られています。
集晶説を支持する理由は、「球形の結晶」と書かれていることです。必ずしもなめらかな球形ではなく表面には凹凸があっても簡単に「球形」と表現されたかと想像しますし、集晶の中には突出した部分の先端が尖らずに丸みをおびる場合もあります。
直径3~5ミクロンというのは花粉の大きさに比べてずいぶん小さいようですね。幾瀬マサ:日本植物の花粉[第2版] (廣川書店 平成13)を見ると、トマトは19-21×19-21(μm)となっていて、ミニトマトでも花粉までミニではないのでしょう。

なお、木島(コノシマ)正夫:『植物形態学の実験法』(改稿版) 廣川書店(昭和52)にはカルシウム塩の顕微化学的試験法として、(a)濃塩酸を滴下→発泡しないで溶解。 (b)硫酸(60%)を滴下→発泡しないで溶解していくと同時に針状の結晶(硫酸カルシウム)を析出する。ただしこの針状晶は偏光装置で検し、光輝しない。(c)バリット水を滴下→変化しない。(d)酢酸を滴下→溶解しない。(e)水酸化カリウム溶液(5-10%)を滴下→溶解しない。―――という方法が載っています。

また、花の中に集晶が出ることがあるか?との疑問にもまともなお答えができませんが、いくつかの植物で苞や萼の中に束晶(針状結晶の束)や砂晶( 光学顕微鏡では砂粒を撒いたように見える)などを見たことはあります。集晶を見た記憶はありませんが、あっても不思議はないような気がします。ただし、萼や花冠ならばまだしも、葯の中にはありそうな気がしませんが、実際に見た人が「あった」と言うならば降参するほかはありません。

手近な文献とおぼろげな記憶でお答えできるのはせいぜいこの程度です。古典的な植物形態学・解剖学で扱う結晶は光学顕微鏡で容易に観察できるものばかりで、3~5ミクロンという小さなものはとかく見逃されて来たように思います。いつも不満足な反応で申し訳ありません。

 福田 泰二(元千葉大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2017-09-25
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