一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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野生のスミレの種のつき方について

質問者:   その他   自然が好き
登録番号4147   登録日:2018-06-24
 野生のスミレがきれいだったので、鉢に植えています。
 最近、花が咲いているようでもないのに、種子がついていることに気づきました。よく見ると新しい柄が伸びてそのてっぺんに種子の嚢がついているようです。
 花が咲かないのに種子がつく、ということがあるのでしょうか?
 もしあるとすれば、どのような条件の時にそのようなことが起きるのでしょうか?
 教えていただけるとありがたいです。
「自然が好き」 さん
植物 Q&A「みんなの広場」へようこそ。質問を歓迎します。
この回答は、塚谷裕一博士(東京大学)にお願いしました。

【塚谷先生のご回答】
質問をありがとうございます。
 よい観察ですね。
 スミレの仲間は、春の花だと思われがちですが、実は一年中花を咲かせるものが大半なのです。
 春に咲く花は花びらが大きく開いて、色もきれいなので、誰の目にも付きますから、春の花だと思われているのですね。
 でも実際は、初夏になっても夏になっても、彼らは花をつけ続けています。ただし、花びらは伸びません。萼も比較的小さいままです。なので、蕾がついているだけで、花は咲いていないかのように見えますが、それでもちゃんとルーペなどで拡大してみると、花粉もできていますし、雌しべもあります。こういう花を、閉鎖花といいます。春の花は、花びらを目立たせて、そしてその一部には距という蜜を溜める部分を作ることで、蜜の好きな昆虫に来てもらい、その代わりに花粉を花同士で交換してもらうようにできています。しかし閉鎖花は、虫に頼らず、自分自身の花粉で自分自身の雌しべに受粉して、タネをつける花なのです。花びらを作ったり、蜜を作ったりすると、そのコストがかかって植物は体力を消耗します。それを省略して、その分どんどんタネを作って増えるための花なのです。
 春の花は、コストがかかる代わりに、自分と違う遺伝子を受け入れたタネを作って、次世代に伝えることができます。初夏以降に作る閉鎖花は、自分の遺伝子しか使えない代わり、気楽にタネを作ることができます。季節ごとにこの両方を使い分けることで、スミレは繁栄してきたというわけです。
 スミレのほかにも、実はこういう閉鎖花をつけるものはたくさんあります。図鑑などでぜひ調べて、それをこんどは野外で確かめてみて下さい。


塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2018-06-25
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