一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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2倍体オニユリの種の発芽時期について。

質問者:   一般   muchuan
登録番号4150   登録日:2018-06-29
オニユリはカノコユリの仲間と聞いています。
カノコユリの種は播種から1年半を経て地上に芽を出しますね。
一方でコオニユリは播種から1ヶ月くらいで発芽すると聞いています。
対馬産の2倍体のオニユリの種を採取するのですが、この種の発芽の時期はどうなるのでしょうか?
カノコユリのように時間が掛かるようでしたら袋蒔きして温度処理を考えています。
お忙しい中恐縮ですがご教授いただければ幸いです。
muchuanさん

植物 Q&A「みんなの広場」へようこそ。質問を歓迎します。
この回答は、植物機能開発学が専門の山岸真澄博士(北海道大学大学院農学研究院)にお願いしました。

【山岸先生からのご回答】
ユリ属の分類について
 ユリ属(Lilium)は100を超える種からなる比較的おおきな属です。Comber(1949)はこの属を、形態や種子の発芽様式などにもとづいて7つの節(Martagon節、Pseudolirium節、Liriotypus節、Archelirion節、Sinomartagon節、Leucolirion節、Daurolirion節)に分類しました。その後核ゲノムの塩基配列に基づいてこの分類が再評価されており(Nishikawa et al., 1999; 2001)、Daurolirion節とSinomartagon節は単一の節にまとめて良いくらい近縁であること、Leucolirion節は、テッポウユリやタカサゴユリを含む節と、中国に自生するリーガルユリを含む節のふたつに分けたほうがよいことが示されていますが、それ以外はおおむねComberの分類と一致する結果となっています。
 ご質問にあるユリですが、オニユリはSinomartagon節に、カノコユリはArchelirion節に属し、ユリ属の中では遠縁です(仲間ではありません)。オニユリとカノコユリは花弁が反り返る点は似ていますが、突起斑点の形状や、葉のつき方(カノコユリには短い葉柄があるがオニユリには無い)などずいぶん異なる特徴がありますし、次に述べる種子の発芽様式も異なります。

ユリ種子の発芽様式
 ユリの発芽は大きく3つの様式に分けられます。「地上速発芽」は蒔くとすぐに発芽して子葉が地上に現れるもので、オニユリやコオニユリを含むSinomartagon節のユリとLeucolirion節のテッポウユリはこのタイプです。「地下速発芽」はエゾスカシユリ(Daurolirion節)が該当し、種子はすぐに発芽しますが子葉は地上に現れず、地下で小さな球根をまず作り、そこから発生した本葉が最初に地上に現れます。カノコユリを含むArchelirion節は「地下遅発芽」で、最初の高温で発芽した種子は地下で球根を作り、その状態で休眠に入ります。次の低温で休眠が破れるとようやく本葉が地上に現れます(自然の状態だと秋に散布された種子は翌年の夏に球根を作り、翌々年の春にようやく地上に現れます)。よって発芽を促進する目的で、袋蒔きして温度処理する方法がとられています。

2倍体オニユリの播種と開花
 オニユリは「地上速発芽」なので、完熟した種子をまくと通常2−3週間くらいで子葉が地上に現れます。私の経験では、いちど保存するよりもすぐに蒔いた方が発芽率は良いようです。温室が使えると冬の間も成長しますのでお勧めです。最初の1年は鱗片葉が出るだけで、茎は伸長しません。2年目にはいると伸長する株が現れ、条件が良ければ半分くらいの株が開花します。そして3年目には多くの株が開花します。ユリは花が咲くまでに時間のかかる、じれったい植物です。


山岸 真澄(北海道大学大学院農学研究院)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2018-07-05
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