一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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葉面吸収のメカニズムについて

質問者:   会社員   まいまい
登録番号4157   登録日:2018-07-05
趣味で園芸をしています。栽培について調べていたら、葉面散布効果が謳われている肥料を多く見かけました。
しかし、処理方法がさまざまで、そのメカニズムがよくわかりません。
作物によって適した処理方法は異なるようですが、解明されているメカニズム例や、作物によってどれくらい違うのか・それがなぜなのか、環境条件が与える影響について知りたいです。
また、散布に適した生育段階として、幼苗期が推奨されている理由もよくわかりません。
葉面散布効果が最大限に発揮される条件を踏まえて、実際の栽培で試してみたいと思います。
まいまい 様

ご質問をありがとうございます。
言うまでもなく、栄養分(必須元素)を根から供給することなく葉面への散布だけで植物を育てることは不可能で、葉面散布はあくまでも補助的な手段となります。いろいろな証拠に基づいて葉面散布剤が作られ市販されていることでしょうが、葉面散布が効果を表すかどうかは植物の種類や生育条件によって大きく違って来るのではないかと思われます。散布の効果が最大限に発揮される条件を探るには、根からの栄養分の吸収状況その他の多くの要素が関わって来る複雑な問題ですので、先ずは与えられた条件下で試してみることから始めざるを得ないと思います。

メカニズムを考えるに当たって基本となるのは次の二つの視点です。(1)細菌や水中で育つ藻類などの植物は普通に体の表面から栄養分を吸収して生育しており、また、栄養分吸収のための器官としての根が発達している陸上植物においても体を構成する細胞間で無機化合物・ホルモン・光合成産物などのやり取りが行われていることから分かるように、植物の細胞には栄養分を吸収する能力が本来備わっていること;(2)植物の陸上部の体表はワックス-クチクラ層で物理的にカバーされていて外から与える物質が細胞には到達しにくい構造になっているため、与えた物質が細胞に到達するには気孔の隙間を通るかワックス-クチクラ層への浸透が必要となることです。このため、植物の生育状況・構造上の特性が大きな問題になるのは当然です。葉面散布剤として市販されているものには、尿素・アミノ酸・糖などの比較的低分子の有機化合物、マンガンやモリブデンなどの微量必須元素、窒素・リン・カリウムなどの主要な無機栄養物など、栄養物(肥料)となる可能性のある広範囲の化合物に加え、これらの化合物の体内への浸透を助けるための物質が含まれております。試みに条件の設定に当たっては、ご使用になられる葉面散布剤に含まれる物質の化学的な特性と植物の構造的な特性に着目して考えて見てください。散布の時期として植物の幼苗期が推奨されている理由は、葉面での吸収を妨げる物理的な障壁がまだ良く発達していない段階ということになります。ただし、他方で、幼葉への葉面散布による障害も起こり得ることですので、この点についてもご注意ください。

以上、満足いただける回答にはなっていないかも知れませんが、本コーナーの登録番号2152で葉面散布の問題が扱われておりますので、そちらの方も参考になさってください。



佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-07-10
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