一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ヒトリシズカの花は進化した花?

質問者:   一般   ?いっぱい子
登録番号4164   登録日:2018-07-16
ヒトリシズカの花には、花弁も萼片も無く、未発達で原始的な花だと教わってきました。同じような花は、カツラ、フサザクラなどいろいろあります。
 が、最近読んだ本には、「複雑なものから単純なものへと進化は進む。」とあり、「今は、花弁や萼片が退化したと考えるのが妥当。」と書いてありました。
 確かに、モクレン科を原始的な植物とするのは、理解できるのですが、センリョウ科とモクレン科の出現時期はいずれも古い方で、そんなに差はないと思うのですが・・。出現時期の調べ方が間違っているのなら、納得できます。どこで混乱したのか分からず、困っています。
?いっぱい子様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。花を見て、美しいとか可愛いとか言って愛でるだけでなく、あなたのように?を持って観察して下さる方がおられると、研究者はとても嬉しいです。今回のご質問への回答は、このような問題がご専門の「自然科学研究機構 基礎生物学研究所 生物進化研究部門」の長谷部光泰教授に回答していただきました。また?が生じましたら本コーナーを再度お訪ねください。

【長谷部先生からのご回答】
ご指摘のように、ヒトリシズカ、カツラ、フサザクラなどは一昔前は祖先的な花だと思われてきましたが、遺伝子を用いた研究から、どれもガク片と花弁を持った祖先からガク片と花弁を失うように進化したことがわかりました。祖先がどんな形をしていたかは、近縁な植物がどんな形をしているかで推定できます。たとえば、ヒトリシズカの属するセンリョウ目の兄弟にあたる植物に花弁とガク片がある、いとこにあたる植物にも花弁とガク片がある、はとこにあたる植物にも花弁とガク片があるとなると、曾祖父や曾祖母にあたる植物は花弁とガク片を持っていた可能性が高くなります。そして、センリョウ目で花弁とガク片が無くなったとすると、進化の過程で1回だけ花弁とガク片に変化(進化)がおきたことになります。一方、曾祖父や曾祖母が花弁もガク片も持っていなかったと仮定すると、はとこが属する大叔父や大叔母の家系で花弁とガク片が進化し、いとこが属する叔父さんの家系でも花弁とガク片が進化しないとなりません。つまり、花弁やガク片が2回変化しなければならなくなります。とすると、1回余分に進化がおこらなければなりません。また、花弁やガク片を失うことの方が新しく花弁やガク片を作りだすよりも簡単だろうという考え方もできます。

ヒトリシズカはセンリョウ目に属します(「目」は「属」と「科」の上の単位です)。センリョウカの兄弟はモクレン目、クスノキ目、コショウ目、ウマノスズクサ目(この4つがまとまって一つのグループを作っています)です。コショウ目は花弁もガク片もありませんが、モクレン目、クスノキ目は両方持ち、ウマノスズクサ目はガク片だけのものと両方のものがあります。いとこにあたるのはアウストロベイレイア目(シキミなど)や単子葉植物です。どちらもガク片と花弁を持っています。はとこにあたるのはスイレンです。これも花弁とガク片があります。

被子植物の類縁関係についてはhttp://www.nibb.ac.jp/evodevo/tree/00_index.htmlにまとめてありますのでご参考にしてください 。


長谷部 光泰(自然科学研究機構基礎生物学研究所生物進化研究部門)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2018-07-23
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