一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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きのこの培養

質問者:   一般   オスロ
登録番号4170   登録日:2018-07-25
市販のキノコの一部分から種菌を培養し、自分でキノコ栽培を試された方のブログを目にしました。そこで疑問に思った事がありましたので質問させていただきます。その方は種菌の培養に市販の生のキノコを用いていましたが、このような種菌の培養は乾燥キノコ(干し椎茸など)からもできるのですか?最近菌活という言葉をよく耳にし、サプリなど粉になっていますが、キノコの菌というのは乾燥しても死なないのでしょうか?
オスロさん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
最近は「XX活」と言う言葉がはやっているようですが「菌活」は知りませんでしたので少しばかり調べてみたら「菌類を食べて元気になろう」ということのようでした。
昔、「紅茶きのこ」というのが流行ったことがあります。紅茶に「カスピ海産の種菌」を植え付けて、放置しておくと形成される菌糸の層を食べると健康に良い、とのことでした。要するに「微生物の本体や生産物を摂取すると良い」との考えで、今流に言えばプロバイオティックス。世界的にはヨーグルト、チーズ、日本では昔から味噌、醤油、漬け物などといった発酵食品でよく知られていることですね。
さて、干しシイタケの菌糸は生きているかどうかとのご質問です。シイタケを代表とする‘きのこ’と呼ばれるものの大部分は担子菌類の子実体(シジツタイ)を指していると言って良いかと思います。もちろんトリフュ(子嚢菌の子実体)のような例外はありますが。子実体とは菌類の増殖を担う胞子を生成する装置です。きのこの本体は菌糸の集合体でその一部が子実体となり、子実体に胞子が形成されるものです。菌糸の生存には他の生物と同じに水が不可欠です。水分がなくなると成長しなくなり、乾燥してしまえば細胞は死んでしまいます。ところが胞子(子実体傘の裏側にある襞“ひだ”の中につくられる)はとても安定した耐久力のある性質を持ち、極端な乾燥状態のおかれても死滅することはありません。植物の種子と似ています。適当な温度で水や酸素が与えられると発芽して菌糸を伸ばし始め、きのこの生活環を回り始めます。そこで、干しシイタケは種菌として使えるかどうかですが、食べる部分の大部分は死んだ細胞の塊と考えて差し支えないでしょう。しかし、傘の裏の襞の中には胞子が必ずあるはずで、乾燥途中で胞子がその他の部分に付着している可能性は高いものです。ですから種菌として使える理屈ですが干しシイタケの一部を菌床に植え付けてもシイタケ生産には無理と思われます。理由は、干しシイタケは無菌状態ではなく他の頑丈な菌類がたくさん付着しているので、菌床に植え付けてもシイタケ菌糸の生育が負けてしまうからです。干しシイタケから採取した胞子を無菌の培地で発芽繁殖させた後、無菌の菌床に移し菌糸が十分生育した菌床が種菌として使え、市販されています。
菌活で言うきのこの粉末の効用は、菌糸が生きているかどうかではなく、きのこ本体の代謝物や乾燥過程で増加したビタミン類などの摂取の効用(その真偽は別として)と理解すべきでしょう。


今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-07-30
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