一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ナガミヒナゲシのトライコーム

質問者:   小学生   ツッチー
登録番号4184   登録日:2018-08-04
以前の質問コーナーで、トライコームの役割がのっていました。様々な、役割があることがわかりました。僕はナガミヒナゲシの観察をしていました。葉や茎、蕾にトライコームがあります。ナガミヒナゲシのトライコームの役割は何ですか?
ツッチーさん

ツッチーさんはトライコームに大変興味をお持ちのようで、すでにその働きについてお調べになっていますね。今回のご質問は、ナガミノヒナゲシという特定の植物におけるトライコームの働きは何か、という限定的なものです。残念ながらこの植物における働きを生態的、生理的に調べた研究を見つけることが出来ませんでしたので、他の植物での働きから類推してみました。
トライコーム(ここでは植物の毛状体と広く解釈します)の働きは腺毛と非腺毛に大きく2つに分けることが出来ます。腺毛は精油(香り成分)、粘液物質、蜜、塩などを分泌する働きを持っています。非腺毛は様々な形で、細かく柔らかく密生することが多い毛(乳頭突起)、柄の上に平らに広がった傘状.あるいは柄の先がかぎ状に曲がったもの(鱗毛,鉤毛)、先のとがった直毛でケイ酸などが沈積して固いとげ状の剛毛、単細胞で非常に長く成長した毛(綿毛)などで主に保護的な働き(例えば濡れない仕組み、保温など)、外敵を防ぐ(虫除け、アリやアブラムシなどが歩きにくくする)、他物に付着しやすくして自身の茎を支える(例えば、庭や畑の困りもののヤエムグラ。手で触れるととげとげして痛いくらいです)、種子の飛散を助ける(ワタの綿毛)など働きをしていると考えられています。
ナガミノヒナゲシはケシの仲間です。ケシの仲間は麻薬であるアヘン(モルヒネ)を産生するものとしないものとがあり、園芸品種であるナガミノヒナゲシは麻薬成分を産生しないので栽培が許されています。大ざっぱに言うと、麻薬成分を産生するケシの仲間の茎、葉、花梗にはほとんど腺毛はなく非腺毛(剛毛)もないか、あっても限られた部位に少しですが、安全な園芸品種には剛毛が多くあるとされています。ヒナゲシの毛状体は麻薬成分の合成、分泌には関係ありませんから、保護的あるいは虫除け的な働きをしているのではないかと類推できます。さらに想像をたくましくすると、麻薬成分を産生する仲間はこの成分が強力な外敵防除の働きをし、麻薬成分産生のないヒナゲシは毛状体で外敵を防いでいるのではないか、とも想像できます。ナガミノヒナゲシの外敵がどんなものか知りません。ツッチーさん、次の季節にどんな虫が訪れるか観察してみませんか。
なお、トライコームに関する質問は他にもたくさんあります。登録番号2383, 3804, 4087, 4116などは参考になります。またこのコーナーで「トライコーム」「毛」「毛状体」などをキーワードとして検索していただくと他にもたくさん関連解説が見られます。
是非参照してみてください。



今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-08-10
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