一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物のストレスによる影響について(「踏むと四つ葉になる」の検証)

質問者:   教員   もも
登録番号4282   登録日:2018-11-16
初めまして。私は現在、課題研究の授業において、「踏むと四つ葉になる」という噂の検証に取り組んでいます。どうやら、
「踏まれると、外的ストレスまたは葉原基にできた傷により四つ葉が発生する」とされているようです。しかし残念ながらそれらを裏付ける論文等が見つかりませんでした。
そこで、
実験①実験室裏に作った2区画でクローバーを種から育て、1区画のみ毎日踏む
実験➁人工気象器内で作った2区画(各50個体)でクローバーを種から育て、1区画のみ全ての葉原基をつまようじで刺激する
の2つの実験を行っています。今回は実験①についての質問です。

実験①の踏む区画において、4枚葉以上を観察できたのは2本だけでした。2枚葉は20本以上見つかりますが、外での飼育なので踏んだ影響ではなく虫に食べられた等の原因が否定できません。ですが、
(1)踏まない区画と比べて3枚葉の本数が多い
(2)踏まない区画と比べて3枚葉の背丈が低い
の2点は定量的に言えるような結果になりそうです。

そこで質問は、「生育本数の減少、成長抑制はストレスと言ってよいのか?」ということです。

植物が全く専門でなく、植物にとっての「ストレス」の定義が調べてもわかりません。しかし、生育本数の減少、成長抑制されていることから、「踏むとクローバーにストレスがかかった」と言ってよいのならストレスが原因で4つ葉ができる可能性が低くなるかと思いました。
よろしくお願い致します。
もも 様

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
さて、下記の説明は、登録番号4277、“質問のタイトル:シロツメクサ(クローバ-)の葉の欠け”の冒頭部分ですが、関連する事項も多いので、まずこちらをお読みください:
「クロバーは身近な植物で、四葉のものに対する世間の関心も高いようで、「みんなの広場」で[四葉]、または[シロツメクサ]で検索すると、20件近くがヒットします。中でも、登録番号0624, 0761, 923などには、いろいろ参考になることが書かれており、これらを参考にして、次のようにまとめられると思います:

* シロツメクサの葉は、普通3個の小葉をつけるが、中には4個以上の小葉をつけるものもある。4個以上の小葉をつける場合の多くは、葉の形成過程で組織が何らかの損傷を受けた可能性が高いと考えられる。
* しかし、ある区域に生える株の群落で、四葉の頻度が高いものもあり、これは遺伝子の変異によると考えられるが、その遺伝的背景は良く分かっていない。

さて、“ももさん”の質問と順番が逆になりますが、まず「(2)踏まない区画と比べて3枚葉の背丈が低い」についてお答えします。
植物の茎葉は、踏む、接触する、風に当たってそよぐ等の機械的刺激を受けると茎の高さが低くなることが知られており、これは、植物が刺激に応答して植物ホルモンのエチレンを合成するためです。エチレンには、茎の伸張抑制と肥大促進、リンゴやバナナなどの果実の成熟促進、カーネーションなどの開花阻害など、さまざまな生理作用があります。外から加えたエチレンも有効で、もやしを作るときに空気中にエチレンがあると胚軸の成長が押さえられた太いもやしができます。暗所で発芽させ、数日後から微量のエチレンを含む空気下で育てると軸の太いもやしとなるのです。昔は、やせ細った人のことを「もやしのような」人と表現することがありましたが、今や市販のもやしは、エチレン処理によって軸の太いものが一般的です。また、キクの栽培では、頚頂部をときどき毛筆で軽くなでると、茎や葉がしっかりした草型になります。(エチレンについては、[みんなのひろば]で[エチレン]を検索語とすると、200件以上の回答が出てきます)。   
植物にとっては、踏まれるような環境下では、伸長成長をして光を受けやすくするよりも、肥大成長をしたり葉の数を増やすという戦略をとったものが成功する可能性が高かったと考えられます。
「(1)踏まない区画と比べて3枚葉の本数が多い」に」ついて:
“多い”についてですが、(A)株当りの葉の数自体が多い、(B)小葉の数が2,3,4とあるものの中で3のものの割合が高い、の2つが考えられますが、(A)について回答します。踏圧の大きさや頻度が適当であれば、踏圧を受けた植物は、伸長成長を低下させ、それによって節約できた有機化合物を茎の横方向に伸張させること、葉の数をふやしたりすることに振り向けることができます。農業では、秋まきの麦類に対する「麦踏み」が良く知られており、晩秋から早春にかけて芽を軽く足で踏むことにより、伸張成長の抑制、株分かれの促進、根の張りの促進等により、麦の収量を上げることができます。
 しかし、踏圧は適度であることが重要で、人がよく通る農道や登山道のように過度の踏圧を受けるところでは、多数の植物種は駆逐されて、一部のイネ科の植物やオオバコが優先種となります。
 (B)の場合は、成長初期の踏みつけによって若い葉が損傷を受け、2枚葉や4枚葉の割合が高くなったことが考えられます。
さて、「生育本数の減少、成長抑制はストレスと言ってよいのか?」という質問については:成長抑制については既に説明しました。生育本数の減少が、クロバーの葉の数の減少を指すのであれば、これは、踏圧の大きさや回数がクロバー自体に損傷を与えた、あるいは、土壌を硬くし過ぎてしまい、クロバーの生育に悪影響を及ばしたことが考えられます。


櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2018-11-26
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