一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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種子や果実の油について。

質問者:   一般   みるとんとん
登録番号4293   登録日:2018-12-01
私たちが口にしている植物性の油のほとんどが種子や果実からですが、この油は種子や果実にとってどんな役割を果たしているんでしょうか?
みるとんとんさん

1)まず、種子の油についてお答えします。「みんなのひろば植物Q&A」には種子に関する質問が多数寄せられており、「種子」を検索語とすると数百件以上の回答が出てきます。興味がありましたらご覧ください。下記は、登録番号0431 「大豆貯蔵タンパク質の分解について」の冒頭部分です。「植物の種子は次世代が自立栄養を出来るようになるまでの栄養分をデンプン、タンパク質や脂肪の形で貯蔵している貯蔵器官です。植物種によって主として貯蔵する物質が異なりイネ、ムギ、エンドウなどのように主にデンプンを貯蔵するものをデンプン種子、ゴマ、アブラナ、ヒマなど脂肪を主とするものを脂肪種子と呼んでいますが、タンパク質は窒素の供給源として不可欠の貯蔵形態でどちらの型の種子にもかなり多量に貯蔵されています。中でもダイズはタンパク質、脂肪を多く貯蔵しますので、食糧としても重要なタンパク質源、脂肪源となっています。」


(以下の部分は、植物生態学が専門の久米篤博士(九州大学大学院農学研究院教授)に回答をお願いしました。)
 上記のように、種子に含まれる脂肪(油)は、種子が芽を出して、葉を展開し、光合成をはじめるまでの資源となります。デンプンやタンパク質からは1gで4.1kcal/gのエネルギーを取り出せるのに対し、油類は1gで9.3kcal/gのエネルギーが取り出せます。油を利用すると同じエネルギー当たりでは軽くて小さな貯蔵器官で済むことになります。デンプンと比較すると、脂肪の利用にはより多くの酵素反応が必要なため、短期的なエネルギー利用にはあまり向いていませんが、長期的に安定して貯蔵するにはとても向いています(石油も油の1種ですね)。これは、小さな粒の中にエネルギーを濃縮する種子の貯蔵物質としては適した性質といえます。

2)果実(果皮)に含まれている脂肪分は、直接的には種子の成長には利用されません。では、何故、貴重な脂肪分が果実に蓄積されているのでしょうか。これは、果実の中にある種子の散布と関係があります。特に樹木の場合、親植物の近くではその子供である種子が発芽して成長できないことが多いのです。そのため、親から離れた場所に種子を運んでもらう必要があります。これには鳥や小動物が大活躍しています。ムクドリやキツツキ類、カラス類など多くの小鳥類は、高カロリーの脂肪を含んだ果実が大好きです。ナンキンハゼやハゼノキ、クスノキ、クロガネモチなどが好んで食べられますが、果実に含まれる脂肪分の量が多い果実ほど、より好まれることが観察されています。鳥は、果実の中の種子は消化できないのでそのまま糞として排出され、地面に落ち、親木から離れた場所で発芽することができます。オリーブ油で有名なオリーブの果実も鳥に好まれます。また、パーム油の原料として有名なアブラヤシの果実も、現地では鳥やリスなどの小動物の大好物となっています。最近、脂肪分を多く含んだ果実としてアボガドが販売されていますが、これはクスノキ科の樹木で、日本の近縁種であるクスノキやタブノキなどの果実にも脂肪分が多く含まれています。ただし、日本のクスノキ科の樹木の多くは鳥散布種子ですが、アボガドを食べる鳥は存在せず、アメリカ大陸で既に絶滅した巨大動物に合わせて共進化した結果だと考えられています。
このように、脂肪を多く含んだ果実が多いのは鳥や動物に散布してもらうことが目的です。しかし、種子が未熟なうちに食べられてしまうと、この目的が果たせないことになります。鳥類は、ヒトには見えない紫外線領域の光も色として見ることができ、多くの果実は紫外色の変化で果実の熟れ具合を鳥に伝えています。
 なお、スミレやカタクリなどの草本類やアケビ類の種子にはエライオソームと呼ばれる脂肪に富んだ付着物があり、これでアリ類を集めて種子を運ばせることが知られています。面白いことに、アカメガシワの果実は脂肪分が豊富なため鳥類によって種子散布されますが、葉には蜜線がありアリを集めることで外敵から身を守っていることが知られています。

久米 篤(九州大学大学院農学研究院)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2018-12-06
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