一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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花成ホルモンとABCモデルに関して

質問者:   会社員   射手座
登録番号4300   登録日:2018-12-05
花成ホルモンと、花の器官形成に関するABCモデルについて質問させて下さい。
仕事柄、高校の教科書を見ることが多いのですが、ふと疑問に思いました。

私なりに色々調べたところ、シロイヌナズナでは葉で作られたFTタンパク質が花成ホルモンの役割をしていて、それが茎頂の細胞に運ばれるとFDタンパク質と複合体を作り、これが転写調節領域に結合することでAP1遺伝子の発現を促進し、それにより花芽形成が促進されると分かりました。また、AP1遺伝子の働きが欠損している個体では不完全な構造の花が生じることより、AP1遺伝子自身も、ABCモデルのクラスA遺伝子の一種とのことでした。

ここで疑問なのですが、これは矛盾していないのでしょうか?

つまり、AP1遺伝子の働きが欠損している植物体は、ABCモデルに基づいて考えるとクラスA遺伝子の働きの欠損個体ですから、がく片と花弁がなく、おしべとめしべばかりの花が形成されると考えられます。しかし、そもそも、花成ホルモンにより直接的に発現調節を受け、花芽形成を促進するAP1遺伝子の働きが欠損しているのですから、花自体生じないとも考えられます。

AP1遺伝子の働きが欠損している植物体では、花芽が形成されることはあるのでしょうか。また、花芽形成が起こるならば、それはどのような仕組みになっているのでしょうか。色々調べてみましたら、FD-FT複合体によりLFY遺伝子の発現も調節を受け、ホメオティック遺伝子の発現を促進するとのことでしたが、もしかして、それが関係しているのでしょうか。
どうかご教示をお願いします。
射手座 さま

植物生理学会みんなの広場Q&Aコーナーのご活用有り難うございます。
質問を歓迎いたします。
回答は、花芽形成がご専門の奈良先端科学技術大学院大学 伊藤寿朗先生にお願いしました。

【伊藤先生のご回答】
ご質問は、花芽の形成と花器官の形成においてそれぞれ異なった機能を持つAPETALA1(AP1)タンパク質の突然変異体の表現型についてですね。そもそも、AP1の機能がなくなったときに、花芽が出来ないはずなのに、どうして花器官への影響が観察されるのでしょうか、という問題です。

射手座さんはとてもよく勉強されていますね。花の一生の異なった時期に機能するタンパク質が壊れた場合に、最初の段階で時間は止まってしまい、それ以降の花器官作りは出来ないと考えるのはもっともなことです。
その答えはすでに、ご質問の後半部に書かれています。AP1遺伝子が壊れても、その遺伝子経路は一本だけではなくもう一つの遺伝子があるために花芽は形成されます。そのもう一つの遺伝子がLFY遺伝子というので正解です。AP1とLFYも転写因子として機能するタンパク質であり、協調的に機能して、ABC遺伝子を含む下流の遺伝子の発現を誘導しています。それでは、この2つの遺伝子の両方ともの機能がなくなった二重突然変異体はどうなるでしょうか?
ご想像のとおり、花芽は形成されず、2つ目のAP1の機能についてはもう見ることは出来ません。
植物にとって、花を作って子孫の種を残すことはとても大切なことです。そのために、1つの遺伝子が壊れてもなんとか花を作って種を残せるように、非常に賢い遺伝子のネットワークが形作られています。
ご質問どうもありがとうございました。



伊藤 寿朗(奈良先端科学技術大学院大学花発生分子遺伝学研究室)
JSPP広報委員長
木下 哲
回答日:2018-12-07
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