一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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自然界でも挿し木で増えたりするのか

質問者:   会社員   佐藤
登録番号4333   登録日:2019-01-14
園芸が趣味で、園芸雑誌を参考に挿し木で増やすことも楽しんでいます。うまくいかないことも多いので、自然環境ではどうなっているのか知りたいと思いました。直感的には、折れた枝や葉から根や芽が出て、順調に育つ環境はないように思います。こうした植物の性質は、自然環境ではどのように活用されているのでしょうか。
佐藤さん

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
回答は、植物生態学が専門の久米篤博士(九州大学大学院農学研究院教授)にお願いしました。

【久米先生のご回答】
挿し木は、種子による増殖が難しい樹木や、同じ遺伝的な性質を持った個体(クローン)を人間が増やしたい場合に広く利用されています。園芸の場合には、サツキやバラ、アジサイ、クレマチスやゼラニウムなど多くの植物で行われています。林業では、スギの苗は挿し木によって大量のクローン苗が生産されていますし、土木では、ヤナギの挿し木(埋枝法)が治山など早期緑化の必要な場合に利用されています。基本的にどの植物でも挿し木(挿し芽)によってクローンを増やすことは可能ですが、植物の種類によって根の出やすい、出にくいという性質には大きな差があり、発根しにくい植物の場合にはオーキシン系の植物ホルモン性物質を発根促進剤として外部から与えることもよくあります。
 自然界では、様々な樹木で切り離された枝からの再生が知られています。たとえば、崖崩れ跡や氾濫原などに真っ先に定着するヤナギの仲間は、折れた枝が地面に落ちると、そこから根を出して再定着して増えていきます(土木緑化ではこの性質をそのまま利用しています)。下枝が地面に接地して、そこから発根して樹木となる伏条更新は様々な樹木で観察されます。この時、親個体とつながっていた茎が腐るなどして連結が切れた場合、すなわち挿し木状態になったときに、発根が促進されることが多いようです(アオキなど)。また、挿し木で容易に増殖するスギやヒバでは、積雪地の伏条更新が有名です。
 このように、挿し木で増やしやすい植物は、自然界でも似たような状況で茎から発根して増える機会が多いようです。園芸の場合には、自然界では茎から発根しにくい植物に対しても、人間の都合のために少し無理して根を出させて利用しているということになるのでしょう。


久米 篤(九州大学大学院農学研究院)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2019-01-28
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