一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ヤドリギの起源

質問者:   会社員   masaki
登録番号4373   登録日:2019-03-19
ヤドリギを見るたびに不思議に思うのですが、ヤドリギは何処から来たのでしょうか?
ヤドリギの繁殖過程は、
寄生した植物で成長→花を咲かせる→実をつける→実を鳥が食べる→他の木で種入りの糞をする→寄生する といった過程だと思うのですが、ヤドリギの起源はどのようなものだったのでしょうか?ヤドリギの元となる地面から生えていた木があったのでしょうか?
masaki様

植物Q&A のコーナーをご利用下さりありがとうございます。
回答は、系統分類学、共進化がご専門の横山 潤 先生にお願いいたしました。下記のような懇切丁寧な解説を頂きました。

【横山先生の回答】
ヤドリギ、本当に不思議な植物ですね。ヤドリギは、ヤドリギ科ヤドリギ属というグループに属している、130種ほどの植物のうちの1種です。ヤドリギ科には他に6つの属があり、全て植物の茎に寄生する、ヤドリギと同じような生活をしている寄生植物です。日本にはこのうち、ヒノキバヤドリギというのが見られます。以前は、マツなどに寄生するマツグミや、ヤドリギと同じように落葉樹に寄生するホザキヤドリギ、もっと南に生えていて常緑樹に寄生するオオバヤドリギなどもヤドリギと同じ仲間に含められていましたが、最近は遺伝子の情報を使った進化の道筋の研究(分子系統解析)が進んで、ヤドリギとは少し離れたグループであることがわかり、オオバヤドリギ科というのが設けられています。

ヤドリギとその仲間の前置きが長くなりましたが、ヤドリギ科、オオバヤドリギ科が含まれるビャクダン目(目というのは、縁の近い科が集まってできる、もう一つ大きいグループのことです)は、現在知られている寄生植物の多くが属する、寄生植物だらけのグループです。根に寄生する全寄生植物(光合成をしなくなってしまった寄生植物)として知られるツチトリモチの仲間(ツチトリモチ科)も、ビャクダン目に含まれます。そして、ビャクダン目の進化の道筋を、上で述べた遺伝子の情報を使った方法で調べると、おそらくこのグループも最初は独立して生活していたけど、やがて根で他の植物に寄生して生活するように進化したという方向が見えてきました。ビャクダン目の中には、ヤドリギのように茎に寄生する生活を送るように進化したグループが、ヤドリギ科、オオバヤドリギ科以外にも、もう3グループあって、ビャクダン目の範囲の中で最低5回、茎に寄生するように進化したこともわかっています。

ここで興味深いのは、オオバヤドリギ科を含め3つの科で、これらでは科の中に、根に寄生する種類と茎に寄生する種類が知られています。ここからわかることは、ヤドリギのような茎に寄生する植物の進化は、根に寄生する祖先から生じたということです。ヤドリギ科には残念ながら、同じ科の中に根に寄生する種類がありませんが、縁の近い科の状態から考えて、同じように進化したのではないかと推測されます。

しかし、根に寄生する種類と茎に寄生する種類の間には、生活の仕方にまだかなり大きなギャプがあります。元々は根に寄生する植物が、すべての生活を木の上で行うようになるまでに一体何があったのか、多分masakiさんが一番知りたいと思っているところには、まだ残念ながら明確な回答はないのが現状だと思います。ただし、一つの可能性を示していると思われる例が、中米から南米にかけて生えているGaiadendronという寄生植物で見られます。Gaiadendronという植物はオオバヤドリギ科に属し、オオバヤドリギ科の中ではかなり古くに他のものと分かれた系譜を持っています。この植物は、根に寄生する植物ですが、陸上と樹上と両方に生育します。熱帯ではよく見られる現象ですが、温度・湿度が高い環境では、植物は樹上に着いた状態で、地上に根をおろすことなく生育できます。このような生活をする植物を着生植物と呼びますが、Gaiadendronの少なくとも一部の個体は、これら着生植物の根に寄生しているのです。ここから想像をたくましくすると、根に寄生する植物→着生植物の根に寄生する植物→茎に寄生する植物と、少なくとも生活の場が樹上になる部分は説明ができるようになります。ここから根→茎と、寄生場所を変えるところにはまだよくわかりませんし、Gaiadendronの種子は鳥が食べることで蒔かれますが、ヤドリギの種子のように、周りに粘る部分を持っていませんので、枝に直接接着することがなさそうです。まだいろいろな点がわからないままで、しかもどのように調べたらいいかという点でも簡単ではないので、十分なお答えになっておらず申し訳有りませんが、なんでこんな変わった植物がいるのだうろとあれこれ考えるのは、とても楽しいことだと思います。



横山 潤(山形大学理学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
庄野 邦彦
回答日:2019-04-26
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