一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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花蜜と柱頭浸出液について

質問者:   その他   あきのかあさん
登録番号4396   登録日:2019-04-16
 うちの子が、昨年、理科研究でミツバチが集めてきた花粉を数えて西洋ミツバチと日本ミツバチの訪花特性の違いについて調べていました。
 そこから、花が蜜を出すタイミング(時間帯や条件)や分泌量とミツバチの訪花のタイミングについて何かしらの関係があるのではないか。どうしたら調べられるだろうかと子供なりに考えているようです。
 そういう折に、「花粉がめしべにつくと柱頭から蜜がでて花粉管が伸びる。その蜜をミツバチが吸いに来て受粉を助ける」と学校の先生に教えてもらったそうです。

 私は、柱頭の浸出液には糖が含まれているのは知っていましたが、それは蜜とはまた違うものだろうと漠然と考えていましたので、子供の話は驚きでした。
 ミツバチが、花の奥にある蜜腺から出てくる花蜜と柱頭浸出液のどちらも吸うのだとすると、花蜜と柱頭浸出液の組成や糖の濃度は似ているのではないかと思いました。
 また、花蜜と柱頭浸出液の分泌になにかしらの相関関係があるとすれば、柱頭浸出液を調べることで上記の疑問を解決できるなにかいい方法が思いつくかもしれないと思いました。花蜜の分泌はあまりにもわずかで子供の実験には難しいですが、柱頭であれば、もう少し扱いやすいのではないかと思っています(素人考えですが)。

 そこで質問ですが、同じ花の中の花蜜と柱頭浸出液の組成や濃度は同じもので分泌のタイミング等も同じと考えて大丈夫なのでしょうか?
 そういう情報が載っている文献・書籍があれば子供に紹介したいと思っていますので、もしあれば教えていただけると幸いです。

お忙しいかと思いますが、よろしくお願いいたします。


あきのかあさん様

植物Q&A のコーナーをご利用下さりありがとうございます。
ナス科、ユリ科などの柱頭には粘性の高い溶液が分泌されます。それらの柱頭を湿潤柱頭と言います。分泌液には、水分の他、脂質、フェノール性物質、糖、アミノ酸、たんぱく質などが含まれています。
分泌液の量と組成は植物によって異なります。テッポウユリの一つの花が咲いてから枯れるまでに50 mgの分泌液を出すという報告もあります。一方、アブラナ科、キク科、ヒルガオ科、イネ科などの植物の柱頭のように分泌液をほとんどださない柱頭(乾燥柱頭)もあります。柱頭からの分泌は花の成熟度とも関係しており、ナス科植物のペチュニアでは、蕾の柱頭では見られないが、開花し成熟するにつれて分泌量が増加するという報告があります。                       
分泌液のはたらきとしては、昆虫による送粉の報酬になっているという論文がまったくないというわけではありませんが、主要なはたらきとしては、花粉を付着しやすくするはたらき、花粉に水分を供給するはたらき、浸透圧を調節することで伸びてきた花粉管の破裂を防ぐはたらき、花粉管の伸長のためのエネルギー源としてのはたらきなどが考えられています。

花蜜は送粉者に対するもっとも一般的な報酬です。その成分はスクロース(ショ糖)、フルクトース(果糖)、グルコース(ブドウ糖)が主要ななもので、少量のアミノ酸、フェノール性物質、ビタミン、たんぱく質を含むことがあります。また、アルカロイドやタンニンを含むものもあります。主要成分のスクロース、フルクトース、グルコースの割合は植物種によって非常に異なります。シソ科やキンポウゲ科植物の花蜜はスクロースの比率が高いが、アブラナ科やキク科の植物の花蜜はグルコースやフルクトースなど単糖類の比率が高い傾向があります。植物の種によっては微量のラフィノース、マルトース、メリビオースを含むものがあります。また、どのような送粉者によって送粉されるかによっても比率は異なる傾向があります。口吻の長い送粉者によって送粉される花の花蜜はスクロースの比率が高いのに対して、口吻の短い送粉者が送粉する花の花蜜はグルコースなど単糖類の比率が高い傾向があります。
花蜜の濃度も植物によって異なります。例えば、ハチの仲間が送粉者の植物の花蜜は糖濃度が比較的高く(20~50%)、チョウやガが送粉者のものは比較的薄い糖濃度(10~20%)です。糖濃度は、天気によっても変わりますし、夜間には花蜜の糖を吸収するので濃度が低下するという報告もあります。分泌のタイミングは、蕾の時には分泌していないが、開花とともに始まり、成熟するにつれ蜜が蓄積するということが、トチノキ、サギソウ、ツリフネソウなど多くの植物で観察されています。しかし、ヤブガラシのように開花の時刻に関係なく特定時刻に蜜を分泌する植物もあります。

このように柱頭からの分泌物も花蜜もその組成は植物によって多様です。分泌量も異なります。天候や時刻によっても変動します。分泌のタイミングも植物によって異なるものがあります。ご質問に答えるためには、同じ植物で、同じ時期、時刻で柱頭分泌物と花蜜の比較することが必要になると思いますが、そのような記載を見つけることはできませんでした。柱頭分泌物については、花粉の発芽、伸長との関係を解析する研究がほとんどといっても良いかと思います。花蜜については、花を訪れる昆虫や鳥などとの関係を解析する研究が活発に行われています。紹介した下記の2冊の本全体がその問題を扱っているほどです。お子様が、花が蜜を出すタイミングや分泌量とミツバチの訪花との関係を調べようとされておられるとのこと、とても興味深いテーマですね。ぜひ工夫して研究を進めて行かれるようにと思います。

参考書を紹介してほしいとのことですが、柱頭分泌物と花蜜との関係を記載したものはみつかりませんが、柱頭分泌物については、「成長と分化」(福田裕穂編、朝倉書店、2001)や「生長と分化」(柴岡弘郎編、朝倉書店、 1990)に記載があります。
花蜜については、「昆虫を誘い寄せる戦略」(井上 健、 湯本貴和編、平凡社、1992)、「花に引き寄せられる動物」(川那部裕哉監修、井上 健、加藤 真編、平凡社、1993)が参考になると思います。

庄野 邦彦(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2019-05-01
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